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●実践で生じた疑問からセルフケア研究へ
私がセルフケア支援の研究に取り組むことになったのは,内科混合病棟の看護師として病院勤務をしていたときの肺がんのAさんとの出会いがきっかけである.当時,告知は一般的ではなかったのだが,Aさんは自ら病名と予後を知りたいと医師にかけあい,病状と治療効果等を把握していた.そして,治療後どんなに身体がしんどい時も,末期となり衰弱がひどくなっても,食事の量やバランスに気をつけ,「動かないと身体が弱る」と言っては足をひきずるようにして歩行練習をし,看護師の手伝いを断ることも多々あった.自分の予後を知る死にゆく患者Aさんにそこまで自分でやろうとさせていたものは何なのか,当時の私は疑問であった.そこで,同じような疑問を抱いた同僚とともに,病棟の看護研究として取り組むことにした.ご遺族となったAさんのご主人に話を聞き,看護記録からAさんの言動の変化を取り出し,病棟看護師の意見を集め,事例検討を行った.この検討経過で,もっとも印象的であったのが,Aさんのご主人の「“末期がん患者”としてみないでほしい」という言葉であった.この言葉で,私はAさんを“死にゆく患者”と見ており,その時々を生きていたAさんの立場から理解していなかったことに気付かされた.疑問であったAさんの振舞いは,最期まで“自分で生きる”セルフケアであり,それを理解することがAさんの支援につながると理解した.
加えて,それまで自分がセルフケアへの看護だと思って行っていた呼吸不全等の慢性疾患患者に対する呼吸指導や内服指導等も,患者主体というよりも看護師がやるべきこと,つまり看護師主体で実践していたと気付かされた.セルフケア支援は,主体として生きる患者の生き方も含む,熟慮を要する奥深い支援だと理解した.
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