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日本看護倫理学会第15回年次大会 教育講演Ⅱ
功利主義の可能性と限界
Utilitarianism: Its possibilities and limitations
児玉 聡
1
1京都大学大学院文学研究科
pp.101-102
発行日 2023年3月20日
Published Date 2023/3/20
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1 .功利主義と公衆衛生
近時のCOVID-19のパンデミックは、感染症の脅威および公衆衛生の重要性を我々に再認識させるものであった。歴史的に言えば、英国の近代公衆衛生の立役者であるエドウィン・チャドウィックは「最大多数の最大幸福」をスローガンに掲げる功利主義者ジェレミー・ベンタムの弟子の一人であったように、人口集団の健康状態の改善を目指す公衆衛生はもともと功利主義と縁の深いものであった1。また今日の災害医療におけるトリアージが「最大救命」のための方法として正当化されることがあるように、公衆衛生と功利主義は理論的にも結び付きが深い2。
しかしそのため、功利主義に対する批判の多くが公衆衛生政策に当てはまることにもなる。たとえば、市民全体を感染から守るために、一部の人が副反応で苦しむことになっても、予防接種を義務化することは許されるか。あるいは、ICUで一人でも多くの人を助けるために、生存可能性の低い患者の治療を中止して、別の患者の治療を優先することは許されるか。これらの問題に対しては、「たとえ結果的に多くの人が助かるとしても、一部の人を犠牲にすることは許されない」という義務論的な批判が常に付いて回るところである。
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