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はじめに
老年期領域における作業療法のこの10年は,医療保険制度の改定と介護保険制度の導入の影響を大きく受けた激動の時といえる.わが国の高齢化は他国に類のないスピードで進み,その対策の基幹として高齢者の保健医療福祉制度の整備が進められてきた1).これら制度の整備に伴い,高齢者のリハビリテーションに従事する作業療法士は増加し,また,医療現場だけではなく,福祉および保健の領域まで実践の場は広がった2).しかし,医療費・介護給付費の伸びの抑制と効率的運用を基本方針とする見直しが始まり,高齢者に関わる他の専門職とともに右往左往している現状にある.サービスの結果を社会から厳しく評価される中,作業療法士は戦略を持たなければならないと考える.
その一方で世の中には健康の概念が広がり,保健や医療の世界では「健康」に焦点が当てられ始めた.WHOの国際障害分類は国際生活機能分類(ICF)へと変わり,生活機能が注目されている3).この変化は,生活に焦点を当て,作業を通してQOLや健康を考える作業療法士にとって歓迎すべきもの,まさに作業療法が時流にあったものになったといえる.われわれが蓄えてきた知識と技術を医療・保健・福祉の中で活用する時である.個々の作業療法士が持つ「知」を共有することで,社会のニーズに応えることができると信じている.
教育の面から見ると,文部科学省は21世紀を「知識基盤社会」の時代とし,高等教育の将来像を示している4).この中に,高度専門職業人養成が記されている.知識基盤社会の中でわれわれに求められるのは,知識を専門化して成果をあげることであり,それを目指すことが教育目標として掲げられている.これは,Druckerのいう「ネクスト・ソサエティ」5)と同じといえる.つまり,これまで国全体の経済発展と個人所得の動向に依存してきたが,これからは資本よりも知識が重視される.そのため専門職として働く者も,資格があるから「良し」の時代ではなくなった.知識を専門化して成果をあげること,それを外へ伝えること,そして組織や社会に貢献していくことが求められているのである.
老年期領域だけに限ったことではないが,われわれ作業療法士は自らの経験や知を同僚・後輩,外部にもうまく伝えてこなかったようである6).それでは,知識基盤社会の中で専門職として生きていくのは難しい.大切なのは作業療法士として明日を生きるために,表現していくことである.
このような観点に立ち,1996年から2005年までの10年間に機関誌「作業療法」に掲載された老年期領域の論文から注目すべきテーマを概観し,さらに作業療法の明日の実践のために,今,「知」を共有するために自らの実践報告の投稿をすすめる.
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