◆特集 質的研究の魅力—作業療法からの視点
作業療法研究のもう一つの扉—質的研究
鎌倉 矩子
1
1国際医療福祉大学大学院
pp.525-532
発行日 2001年12月15日
Published Date 2001/12/15
- 販売していません
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
1980年代のはじめ頃から,作業療法研究の世界に新たな潮流が見られるようになった.それはひとくちに言えば,集団の傾向や平均像の把握をめざすのとは異なる視点の展開,すなわち個への関心の目覚めである.シングルケース実験法のほか,さまざまなタイプの質的研究法がこの時期に姿をあらわした(鎌倉,1997).とりわけ質的研究法は,その後の普及がめざましく,最近のAJOT(American Journal of Occupational Therapy,米国作業療法雑誌)などに沢山の報告を見るようになっている.
質的研究はもともと社会学や人類学の領域で生まれた研究法であるが,これを保健医療分野に取り入れることについて先陣を切ったのは,たぶん看護学の研究者たちである.医科学の研究者たちはそこから最も遠いところに居た.しかしそれにも変化の兆しが見える.1999年の「週刊医学界新聞」に,質的研究法の翻訳記事がシリーズで登場したのはその一例と言えよう.連載開始にあたって同記事の監訳者は,質的研究が非科学的なものだという医師たちの誤解を解きたいと述べた(大滝・他,1999).どうやら時代は変わりつつあるようである.
私は,作業療法には潜在的に質的研究法を受け入れる素地があったと思う。
質的研究とはいったいどのようなものか,作業療法にはそれを受け入れる素地があったと思うのはなぜか,質的研究に刻まれた苦悩の歴史とは何か,それを行おうとする者は何を心しているべきか.本稿ではこれらのことを取り上げる.そしてこれにより,できるだけおおぜいの方々の質的研究への関心を喚起したいと思う.
Copyright © 2001, Japanese Association of Occupational Therapists. All rights reserved.