講座 質的研究・1
質的研究の背景と概観
宮田 靖志
1,2
Miyata Yasushi
1,2
1前札幌医科大学医学部地域医療総合医学講座
2現 JA 北海道厚生連地域医療研修センター札幌厚生北野病院
pp.57-62
発行日 2003年1月1日
Published Date 2003/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551100769
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臨床の知を探る質的研究1)
多くの医療関係者は,自分たちの学問分野は科学的知識に基づいていると考えている.そこでは生物医学的方法で証明することができる事実が知識として扱われる.そのような知識とは,条件をコントロールすることができ,なんらかの方法で測定可能であり,統計学的手法により分析可能な問題や現象を研究して得られるものである.例えば,「心不全の予後改善のためにA薬は有効かどうか」,「膵がんの診断に際してBという画像診断はどの程度の感度・特異度があるのか」,「熱性痙攣の小児は将来てんかんを発症することになるのだろうか」,といった疑問は,大規模臨床試験を実施して数量化した結果を得ることができる.この結果を科学的知識として臨床の場に用いるのである.これはわれわれが今までに慣れ親しんできた方法であり,このようなパラダイムの中で,科学的根拠に基づいて医療を行う大きなうねりが現在EBMという形で結実してきている.
しかし,EBMが広く受け入れられても,患者ケアの臨床的判断や臨床行為は単に科学的根拠に基づくだけでは全く不十分であることを臨床現場に従事する医療者は十分承知している.「この癌患者さんは今何を感じているのであろうか」,「この糖尿病患者さんはなぜ指示を守ってくれないのだろうか」,「この脳卒中後遺症患者さんはどのようにして社会に適応していくのであろうか」,などといった疑問はいわゆる科学的知識として答えを得ることはできない.ここでは,個々の患者をひとりの人間として全体的に理解し直す必要がある.
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