◆特集 作業療法における対象者理解の枠組み
作業という場から
加賀谷 一
1
1千葉県医療技術大学校
pp.335-339
発行日 1997年10月15日
Published Date 1997/10/15
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はじめに
作業療法における対象者の評価と援助は作業という場の存在を抜きにしては語ることができない.作業療法の最も基本的な単位,あるいは研究対象は作業という場であり,そこから離れた人やモノ,活動ではない.
たとえ,個々の原子を対象とすることがあったとしても,作業療法は作業という場から発し,作業という場に戻ってくる.作業という場を見失った時,水が水素と酸素原子に分解し水力学が消滅するように,作業療法はその語るべき全てを失う.
重要なのは,作業という場であり,作業そのものではない.作業より作業の場こそが根元的である.作業という場こそが作業を成り立たせている.作業はその一部に過ぎない.
例えば,何かの作業をしている人の様子を何もしていない場合と比べてみることができる.子どもが父の職場という作業の場に招かれる.そこで目にした父は,家にいる時の父と同じだろうか.バッターボックスという作業の場に立ったプロ野球の4番打者は,家族と共にいる時の彼と同じだろうか.もし同じなら,作業療法の存在理由はどこにあるのだろうか.もし違うなら,そこにこそ作業療法の存在理由があるのではないか.
作業という場を離れてしまえば,興味や関心,意欲や活動性を問うこと自体,意味がなくなる.人と作業は切り放すことのできない一つの場をなしている.作業の場について考えることは,すなわち人の具体的あり方,評価と援助の前提について考えることに他ならない.
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