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はじめに
これまで作業療法の対象者理解は,WHOによる国際障害分類,すなわちimpairment(機能障害),disability(能力障害),およびhandicap(社会的不利)の,障害の3レベルに基づいて行われることが多かった.この分類に沿って作業療法を行う場合,その主眼は「障害の克服」におかれ,対象者の主体性や価値観などは基本的にほとんど考慮されないことになる.Kielhofnerは,1985年,人間作業モデルを発表し,人間システムは,意志,習慣化,遂行の3つのサブシステムからなるという概念を示し,人間を階層的,包括的にとらえる枠組みを提示した.
今回我々が提示するモデルは,人間を生物的,社会的,時間的という3つの側面からとらえようとする見方である.これは,老年期発達心理学の研究者である守屋國光による「自我発達の三次元モデル」1)に示された自我の三側面,すなわち,「生物的自我」,「社会的自我」および,「時間的自我」という観点の作業療法対象者理解への応用である.守屋のモデルは,これまでに発表されてきた様々な自我発達研究の文献レビューの中から,その中心概念を同定する作業によって生まれたものであり,その要旨を表1に示す.
「自我」の定義および内容は,学問領域(哲学,精神医学,心理学)により,また理論家により様々である2〜5).守屋の「自我発達の三次元モデル」は,人間行動の新しい見方を提案するものであり,我々はこれが対象者理解に有用であると考えたため,このモデルによる作業および役割の考察を試みることとした.なお,守屋は三次元の自我を発達的にとらえているが,我々はこれを,作業や役割が同時に持ちうる三側面として考えるため,「自我の三次元モデル」と呼ぶこととした.
なお,ここで述べる三次元自我の我々による意味のとらえ方は,次の通りである.
「生物的自我」は,衣食住が満たされ,心身が健康で快適な状態にあることを希求する自己,「社会的自我」は,他者との親密で良好な関係性を希求する自己,「時間的自我」は,生きる意味を希求する自己,である.また,英語では,一般に自我はego(ラテン語)とselfが同義として使われており2〜5),守屋もその英文要旨では「自我」を「self」と訳している1).従ってこの論文でも,「自我」と「自己」を同義とした.
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