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はじめに
作業療法というものは,おそらく有史以来何らかの形で行なわれてきたといわれています。また歴史的経過とは別に,現在においても作業療法はたとえそのような名がかせられていないにせよ,私たちの身近でさまざまな形をとって行なわれています。
従って作業療法はその歴史の長さと拡がりにおいてきわめて私たちに親しい療法ということができます。現に私がこうして文字を書き連ねている行為もまた作業療法ではないにせよ,1つの立派な作業活動であるわけです。
もし作業療法が単純に作業活動を手段とする療法といえるなら,これは丁度,私たちがそれとは知らずにすでに作業活動という薬を何らかの形で飲み続けているということができるのではないでしょうか。もちろん作業療法においては作業活動自体より,むしろその用い方にこそ療法の理由があるとも言えます。
なぜなら,作業活動自体が私たちの日常のいたるところにあるものならば,作業療法をそれらから区別するものは厳密に言ってその用い方以外にはないことになるからです。
しかしいずれにせよ,作業活動がそれ自体で効果を持ついわば薬でないにせよ,作業活動というものを離れてこの療法がありえないこともまた確かです。その意味で作業活動についてそれを科学的,客観的な言葉で表現し,整理することは,それを用いる作業療法にとって大切な基礎的作業だと思います。
この小論では,このいわば「作業についての作業」を生理学的アプローチや運動学的アプローチ,心理学的アプローチとは別に私たち自身の経験にもとづいて行うよう努めてみました。なぜならそのような経験こそ,他のアプローチに先立って作業活動についての私たちの基本的理解をもたらしているものだからです。もちろんこの理解は,知的な,書物を通して得られるたぐいの理解ではありません。作業活動に関する私たちの理解とは,なによりもまず私たち自身が何らかの形でこれまで述べたようにすでに作業活動に接しているという,その足もと(手もと?)の事実から来ています。この小論はそのような内在的な理解を手がかりとして作業活動をできるだけそれ自身に即して記述,整理しようとしたものです。
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