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はじめに
「精神衛生法等の一部を改正する法律」が昨年9月10日,18日,衆議院・参議院で一部修正のうえ可決,成立し,26日に法律第98号として公布された。太平洋戦争終結後の戦後処理対策の中で,昭和25年5月1日に精神障害者の医療と保護をうたい,精神病の発生の予防に務め,国民の精神的健康の保持・向上を図ることを目的とした精神衛生法が公布・施行された。それから37年が経過し,この間10数次にわたり法律改正が行われてきた。そのうちで最も大規模で重要なものは,有名なライシャワー大使事件後の昭和40年の改正であるが,それですら20年以上も前のこととなった。日本の社会経済が各部面で転換期的な様相を呈し,新たな時代への対応を求められ急激に変化した戦後40年のあゆみの中で,精神科医療は置きざりにされていた。精神病院のベッド数は増設され,入院患者は長期在院のままであったが,やっと新しい展開を迎えたようだ。
改正の契機は,昭和59年に宇都宮精神病院で患者が看護者の暴力で死亡し,そのニュースが世界に流れたことである。その年のジュネーブにおける国連人権小委員会で日本の精神医療に対する批判がおこり,国内外からの精神医療体制に対する批判は高まった。翌年の60年には障害者インターナショナルや国際法律家委員会の調査団が来日した。国連非政府機関の1つであり,人権問題に永年取り組んできた国際法律家委員会は精神医療実情調査団を日本に派遣したが,こうした調査団がいわゆる先進国に派遣されることは希有なことであった。政府はこれらの国際的圧力のもとに,昭和60年8月12日に精神衛生法の改正の方針を発表すると同時に,ジュネーブで開催された国連人権小委員会に精神保健課長を派遣し,精神障害者の人権擁護を更に促進する観点からの同法律の改正を約束した。明けて昭和61年3月に,政府は精神障害者に関連した24の精神医療・社会福祉団体から精神衛生法改正に関する意見を聴取し,改正作業に入った。日本作業療法士協会に対しても意見要請があり,精神障害者の社会参加を基本理念としたリハビリテーション・システムの整備拡充を主軸とした意見書が提出された。7月には公衆衛生審議会から精神障害者の社会復帰に関する意見が提出された。12月に同審議会から「精神衛生法改正の基本的な方向について」(いわゆる中間メモ)が公表された。さらに,精神保健問題検討小委員会等の意見を得て政府案が作成され,昭和62年3月13日に閣議決定された。そして臨時国会で審議され,9月に成立した。
今回の改正の2本柱は精神障害者の人権擁護の推進と地域医療・福祉システムにおける精神障害者の社会復帰の促進である。以下に改正点を事項別に概説する。
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