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私たちは,電気刺激による筋収縮と随意的な筋収縮を同時に組み合わせた運動療法に関する研究を行ってきた.拮抗筋の電気刺激筋収縮を主動筋の随意的筋収縮の運動抵抗として利用したものをHybrid training system(HTS)とし,2000年に日米で特許を取得し,パナソニック株式会社との共同研究を経て2015年にHTS装置を市販化した.HTSは電気刺激に随意運動を同時に組み合わせた電気刺激療法の1つ1)で,電気刺激の特性を活かしつつ随意運動を同時に組み合わせることで電気刺激の欠点を補う(図1)2).メカニカルストレスを付加することによる筋力増強や筋骨格系の萎縮予防を目的とした利用,歩行や自転車こぎ運動などの有酸素運動に運動負荷を付加することによる代謝改善を目的とした利用などに関して研究を行ってきた.関節運動では,電気刺激筋収縮は遠心性収縮,随意的筋収縮は求心性収縮となる.遠心性収縮で得られる張力は求心性よりも大きく,比較的低い電気刺激(痛みがない程度の電気刺激強度)でも十分な張力を得ることができるため十分な運動抵抗が得られる3).さらに,電気的遠心性収縮では比較的低い運動強度でも速筋収縮が十分に惹起され,一方の随意筋収縮では遅筋収縮が惹起される.電気刺激筋収縮と随意筋収縮の筋収縮特性やエネルギー代謝特性を利用することでさまざまな運動効果が得られると考えている.
抵抗運動に関する研究では,肩関節,肘関節,手関節,股関節,膝関節,足関節,さらに腹部の筋力増強,筋肥大効果を検証した(図2).また,筋骨格系の萎縮予防として,片脚免荷実験によって膝周囲筋力低下予防と大腿骨近位骨密度減少予防効果を検証した4).さらに,微小重力環境での筋骨格系萎縮予防法として国際宇宙ステーションでの有人宇宙実験を実施し,宇宙飛行士1名ではあるが,HTSを実施しなかった上肢の筋量変化−0.5%,骨密度変化−1.2%に対し,HTSを実施した上肢は筋量変化+13.9%,骨密度変化+4.6%であった5).臨床では,人工膝関節置換術後の筋力低下予防として,HTSなしでは術後6週目に大腿周径が約3.6%有意に減少したが,HTSありでは大腿周径は減少せず,術後12週目にはHTSなしよりも膝屈曲筋力が有意に増強した.膝痛を有する肥満女性で,週2回12週間のHTS介入を行ったところ,膝屈曲筋力と膝痛が有意に改善し,大型の等速性運動装置と同等の効果が得られた6).また,運動後疼痛緩和(exercise-induced hypoalgesia:EIH)に関する研究として,膝痛を有する女性でHTSを用いた運動直後に膝痛軽減と膝と手の圧痛閾値の有意な増加を認め,さらに週2回12週間のHTS介入を継続したところ,膝痛軽減と膝と手の圧痛閾値の有意な増加を認めた.HTSはEIHに有効な手段の1つと考え,運動による末梢感作,中枢感作の改善効果に関する研究を続けている.
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