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はじめに
近代集中治療医学は,1950年代のポリオ流行に伴う呼吸不全患者の治療を嚆矢とする.ポリオによる急性呼吸不全が重症化すると喀痰の排泄が困難となり,続く肺炎により多くの患者が亡くなっていた.そんな中,麻酔科医Bjørn Aage Ibsenが気管切開や陽圧人工呼吸を行い,ポリオによる重症呼吸不全患者を1カ所に集めて治療し救命率を改善した.呼吸補助が必要なポリオによる呼吸不全患者を1カ所に集めて鉄の肺で治療している写真はよく知られている.より大切なことは,呼吸や循環など臓器不全患者に対する知識や経験の豊富な看護師をはじめとする医療スタッフを配置することの重要性を認識していたことである.各病棟で治療するよりも予後がよかった理由の1つは,生命維持装置の習熟度であったことは想像に難くない.この方法をポリオ患者だけではなく他の原疾患をもつ重症患者にも応用した.
集中治療医学は多くの重症患者の生命を救ってきたことに疑問の余地はない.集中治療医学の発祥から現代に至るまで,重症患者の救命が最も重要な使命であることも変わらない.しかし,重症患者は生存退院後も継続して生存率が低下するだけではなく,身体的・精神的な後遺症が長期にわたって患者を苦しめる(post intensive care syndrome:PICS).患者自身だけではなく家族にも大きな負担がかかり,家族も身体的・精神的な疾患を患うこともわかってきた(PICS-family:PICS-F).少なくとも集中治療室(intensive care unit:ICU)から退室する際には入室する原因となった疾患を患う前の状態で退室できることをめざした治療を行うべきである.わが国においては高齢化が進み,ICUに入室する患者の年齢も高くなりつつある (図1).成人を対象とするICUでは,入室患者の半数以上が65歳以上であるところも少なくない(図2).高齢者の身体能力には個人差が大きいものの,年齢を重ねるにつれて身体能力(筋力)が低下するのは事実であり,ベッド上での治療で筋力低下が急速に進むことも事実である.また,いったん低下した筋力は若年者と比較して回復しにくい.急性期医療における早期からのリハビリテーション治療が重要視されるゆえんである.
重症患者ほど早期からのリハビリテーション治療開始が望ましいことは理解していても,呼吸・循環状態が不安定な場合には介入が難しいのも事実である.本稿では,ICUに入室する患者の早期リハビリテーション治療の有用性と早期からの介入に対する阻害因子について概説する.
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