- 販売していません
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
近年,脳損傷のリハビリテーション(以下,リハ)において,あらかじめ,なんらかの先行介入により脳の代償機能(可塑性)を高めておくことが,リハの効果を最大限に引き出すとされる報告が増えてきた.脳の可塑性を高める手段として,経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation:TMS)や経頭蓋直流電気刺激などが知られているが,さらに,同様の作用をもつ薬剤もいくつか報告されている.
この中核となる薬剤は,アドレナリン系,ドパミン系に影響を与える薬剤で,脳内濃度の増加が損傷脳の可塑性を向上させることから,これらの薬物を投与することによって,リハに対する反応性が高まり,脳損傷で生じた後遺症の機能回復が促進される.脳梗塞モデルマウスにアンフェタミンを投与することで,軸索再生が促進されたことが報告され,実臨床においてもアンフェタミンおよびメチルフェニデートの運動機能改善効果が報告されている.さらに,これらノルアドレナリンを賦活する薬物が脳卒中患者の機能予後によい影響を与えることも強く示唆されている.しかしながらアンフェタミンやメチルフェニデートには心血管障害などの副作用や依存の問題があり,臨床での広範な使用には至っていないのが現状である1, 2).
一方,近年になり開発された,選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬であるアトモキセチンは,注意欠陥・多動性障害(attention deficit hyperactivity disorder:ADHD)の治療薬として小児から大人まで幅広い使用が開始されている.この薬剤は,心血管系に大きな影響を与えることなく脳内アドレナリン濃度を増加させる薬物であることが大規模臨床試験で証明されており3, 4),その副作用特性は従来の使用薬より大幅に緩徐であり患者耐容性は高いといえる.
今回,アトモキセチン併用下でのリハにより,慢性期のもやもや病患者の高次脳機能障害の改善を認めた例を経験したので報告する.
Copyright © 2016, The Japanese Association of Rehabilitation Medicine. All rights reserved.