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医療機器の開発における医工連携の重要性は以前から広く認識され,実際に医工連携の成功によって製品化された多くの医療機器が医療現場で使用されている.しかし,基盤技術が製品としての医療機器となり流通するまでの道のりは険しい.いわゆるシーズから試作品がつくられ,さらに完成品の有効性と安全性が証明されて医療機器の承認を得るまでの,「死の谷」をまず越えなければならない.そして医療機器として世に出たとしても,商品として生き残れるかどうかはわからず,競合品の中で淘汰され,「ダーウィンの海」に沈むかもしれない.この困難な道を進むには,医学と工学というアカデミアの連携だけでは不十分であり,その連携を実現する環境として,産学官に加えて金融の連携が必要である.しかし,これらの連携があったとしても,またすぐれたシーズがあったとしても,医療機器が自然に生み出されるわけではない.「死の谷」を越え,「ダーウィンの海」を渡り切るには,医療現場のニーズに基づき,はじめから事業化を見据え,試作品の製作から非臨床試験,臨床試験,事業化までを一気通貫で進める仕組みと人材が必要である.その課題を解決するため,トランスレーショナルリサーチセンター,ベンチャーキャピタルが設立されてきた.
一方で人材育成は,というと,企業や一部の大学における医療機器法規制の教育にとどまっていたように思われる.そのような中,2015年4月の訪米時に安倍晋三首相はスタンフォード大学において講演を行い,同大の「バイオデザイン」が日本に導入されることに言及した.バイオデザインとは,2001年にスタンフォード大学のPaul Yock博士らが,デザイン思考によって医療機器開発を推進する人材を育成するプログラムとして創出したものである.このプログラムから14年間で40社の起業,400件以上の特許出願がなされ,20万人以上の患者が,本プログラムで創出された機器の恩恵を受けているという.すでにインド,シンガポール,アイルランド,イギリスで導入されていたが,2015年6月,東北大学,東京大学,大阪大学の3大学とスタンフォード大学との間で契約が締結され,ジャパン・バイオデザインが発足した.プログラムは,文部科学省橋渡し研究加速ネットワークプログラムの支援を受け,かつ一般社団法人日本メドテックイノベーション協会を通した産業界との連携により実施される.プログラムの詳細は成書(BIODESIGNバイオデザイン日本語版,薬事日報社)を参照していただきたい.2015年11月現在,全国から選抜された第1期10名のフェローがclinical immersionから何百というunmet needsを探索し,ブレインストーミングを重ねているはずである.ニーズの選別,解決策の創造,そして事業化立案まで,フェローらの挑戦は続いていく.医工連携は,今,新たなステージに入ったと感じている.
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