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はじめに
脳血管障害患者片麻痺患者に認められる痙縮は,この疾患の代表的な臨床症状の1つであり,随意運動を困難にする原因となっている.そのため,脳血管障害片麻痺患者へのリハビリテーション(以下,リハ)・アプローチを行ううえで,痙縮に対してアプローチすることは重要な課題になると考えている.本稿では,脳血管障害片麻痺患者の痙縮の病態生理を脊髄神経機能の興奮性の観点から述べるとともに痙縮の評価の1つである誘発筋電図(F波,H波)を用いて解明する.
F波は,運動神経への電気刺激により逆行性に軸索を伝導したインパルスに対し,一部の脊髄前角細胞が再興奮した結果生じる筋活動電位である.H波は,電気刺激により伸張反射求心路であるⅠa群線維が順行性インパルスを生じ,単シナプス的に脊髄前角細胞を興奮させた結果生じる筋活動電位である.
脳血管障害片麻痺患者の神経生理学的検査による検討はさまざまな方向から行われている.脳血管障害片麻痺患者のF波に関しての報告は,Libersonら1)によるものが最初と思われる.彼らは,F波振幅は麻痺側で有意に増大すると報告しており,これは痙縮によるa運動ニューロンの興奮がF波振幅に反映されていることによると述べている.立ち上がり潜時に関しては,麻痺側で潜時のばらつきが少なく,対象者の半数以上で非麻痺側と比較して短縮すると報告している.Fisher2)も,麻痺側でF波振幅が増大,持続時間は延長し,麻痺側の筋緊張状態や腱反射の状態も反映すると報告している.また,Fisherら3)やEisenら4)は持続時間と振幅との間には正の相関があり,この生理学的要因としては運動神経プールから発射される運動単位数と範囲が増大するためと述べている.ただし,これらの対象はすべて痙性麻痺を有する患者であり,逆に弛緩性麻痺では出現頻度,振幅は非麻痺側より低下することが一般にいわれている.著者ら5)も脳血管障害片麻痺患者の麻痺側および非麻痺側の正中神経刺激による母指球筋F波を測定し,臨床的な筋緊張および腱反射の程度と比較,検討した.F波出現頻度,振幅F/M比は非麻痺側と比較して麻痺側で有意に増加し,その増加は筋緊張・腱反射の程度とよく相関した.このようにF波は痙縮評価および運動機能評価として理学療法領域に用いることが可能である.F波導出の際の刺激強度は,最大上刺激,具体的にはM波が最大となる刺激強度の120%程度が一般的に用いられている.通常,この最大上刺激ではH波に左右されずにF波が導出できるといわれている.しかし,脳血管障害片麻痺患者では,この刺激強度でも高頻度にH波が導出されるために,F波が認められない症例を経験することが少なくない.上位運動ニューロン障害で,F波波形のなかにH波が混入する可能性を示唆している6,7).
そこで本稿では,以前に著者らが報告した脳血管障害片麻痺患者における,刺激強度の増加にともなうH波とF波の出現様式について説明する.この報告から,痙縮評価にF波,H波を臨床応用する際の留意点について述べる.
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