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はじめに
術後早期からリハビリテーション(以下,リハ)に積極的に取り組むことは重要である.診断群分類(Diagnosis Procedure Combination:DPC)が導入され術後の在院日数の短縮が急務の課題とされている.限られた術後の在院日数の中で,周術期合併症を予防し,精神・認知機能,身体機能,栄養状態を充分に回復させること,つまり術後回復能力強化(Enhanced Recovery After Surgery:ERAS)を図っていく複合的医療戦略の中で,術後早期リハは中心的な位置を占めている(図1)1).
術後早期,特に翌日(1 postoperative day:1POD)からリハを施行していく上で克服しなければならない課題としては,①術後痛,②循環動態の安定,③全身的な炎症反応の攻略の3点が挙げられる2).中でも①術後痛の克服は,体幹へ侵襲が加わる呼吸器外科・消化器外科・腹部大血管手術では大きな問題点となってきた.安静時においてさえ強い痛みを伴うこれらの手術を受けた患者に1PODからリハを施行してゆくためには周到に計画・準備された周術期管理,つまり術中麻酔管理と術後鎮痛が欠かせない.
術後早期リハを促進するために求められる術後鎮痛の条件は
・安静時痛は勿論,体動・咳に伴う痛みをも充分に緩和できる鎮痛力価を有すること
・意識が清明に保たれ,傾眠傾向を来たさないこと
・運動機能障害(筋力低下・脱力)を来たさないこと
・平衡機能障害(めまい・ふらつき)を来たさないこと.
・術後嘔気・嘔吐(postoperative nausea and vomiting)を催さないこと.
・循環動態に影響しないこと(②)
の6点である.硬膜外麻酔は術後に患者自己調節鎮痛法(patient-controlled analgesia:PCA)と組み合わせることで上記6点を概ね兼ね備えたほぼ理想の周術期管理を提供しうる.
硬膜外麻酔は痛覚のsignal transmissionにおいてナトリウムchannelを脊髄後角のレベルで可逆的に遮断することで侵害刺激の脊髄への入力をほぼ完全に遮断する.このため,手術侵襲に伴って引き起こされる神経・内分泌・代謝・免疫系に跨る全身的なストレス反応を抑止し,恒常性の維持に寄与する(図2)3).手術中に硬膜外麻酔を充分に効かせ,視床下部・下垂体・副腎皮質系,交感神経・副腎髄質系を充分に安定させた状態を提供し,術後も途切れることなく一貫してこの鎮痛法による持続管理を継続することが重要である.
PCAは鎮痛効果を最大限に引き出しながら,副作用・有害事象を最小限に抑えることを両立しうる鎮痛テクニックとして既に欧米先進諸国では主流となっている.患者は手元に常時携帯されたPCAリクエストボタンを自由に押すことで,痛みを感じた時,あるいは感じそうになったら随時痛み止めの薬物投与(ボーラス)を受けることが可能となる.過量投与を回避するためにはロックアウト機構が機能する.これは,リクエストによるボーラスが施行された後は管理者によって予め設定された一定時間(ロックアウトタイム)内にはいくら追加のボタンを押してもリクエストが排除される(ロックアウト)仕組みである.ロックアウトタイムを経過した後のリクエストに対しては再びボーラスが作動する.通常,患者はロックアウトについては知らされていないためロックアウトされたリクエストにもplacebo効果が伴う.電気駆動式精密PCAポンプ(JMS社製,i-Fusor ®及びi-Fusor plus ®など)では,持続投与量・ロックアウトタイム・ボーラス投与量の自由な設定とリクエスト履歴の確認が可能であり,症例ごとに術後経過に応じたきめ細かい管理が可能となる.
Abstract : Aggressive rehabilitation is essential for enhanced recovery after surgery. Early rehabilitation is, however, invariably accompanied by severe pain. Patient-controlled epidural analgesia (PCEA) provides ideal pain relief for patients who underwent major trunk surgeries, which cause severe pain. Intensive PCEA also facilitates early and aggressive rehabilitation and provides enhanced recovery after open esophagectomy.
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