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はじめに
脊髄損傷の治療には外科的治療,リハビリテーション(以下,リハ)そして最新の再生医療に到るまで様々なアプローチが施行あるいは検討されている.そして,治療の反応性の観点からも急性期から亜急性期が介入にとって適した時期と推測されている.しかしながら損傷から3カ月以内のいわゆる亜急性期での治療介入においては介入の効果判定がしばしば問題となる.これは脊髄損傷おいて受傷時完全麻痺を呈する症例も含め,多くの症例で一定の神経所見の改善が受傷後から数カ月,報告によっては1年間続くことが影響している1).リハの分野では2006年にDobkinらが受傷後8週の不全麻痺(American Spinal Injury Association(ASIA)impairment scale(AIS)B-C)に対する部分免荷式歩行訓練のRandomized Control Studyを施行したところ,対象群となる通常治療施行群で90%以上の症例が歩行可能となったため,免荷式歩行訓練の効果検証が天井効果のため困難となった報告が記憶に新しい2).すなわち,こうした神経症状の自然回復時期に介入を行うと,その後の機能改善が治療介入によるものか,自然経過によるものか,しばしば判別が困難になる.こうした点からも脊髄損傷の治療法開発においては,治療法の開発だけでなく正確な重症度評価に基づく予後予測が重要であることは言うまでもない.
現在,臨床的に行われる脊髄損傷の予後予測は主として神経学的所見に基づいて行われている.この方法は特別な道具を必要とせず,これまでも予後予測について高い精度での報告がある.その一方で,習熟した専門医が不在の状況では客観性の高い所見を取得することが困難となり多施設での臨床調査においての制約の1つとなっている.したがって,脊髄損傷の重症度評価という観点からは,臨床所見とは独立した客観性の高い指標の導入が求められている.
バイオマーカーは血液や脳脊髄液といった生体サンプルから疾患の診断や状態の判断に有用な情報を引き出す手法として広く医学分野で用いられている.癌治療における腫瘍マーカーや糖尿病における血糖値が例に挙げられる.中枢神経疾患のバイオマーカー開発は脳血管障害の分野を中心にこれまで進められており,損傷に伴って崩壊した神経組織からの逸脱蛋白質を体液中で検出するアプローチがこれまで試みられてきた.2005年にShawらによって神経軸索の構成蛋白の1つであるpNF-H(リン酸化ニューロフィラメント重鎖)がラット脊髄損傷モデルにおいて血中で上昇すること,またこの蛋白が血中で比較的安定な性質を持つことから数日間にわたって計測が可能であることが報告された3).これまで報告されてきたS100BやNSEといったバイオマーカー候補に比べると,末梢血中で安定した測定が可能な点は臨床的に大きなメリットと考えられた.
今回我々はヒト脊髄損傷症例からの末梢血液サンプルを収集し,その中に含まれるpNF-H値と個々の症例の運動機能予後を対応付け,この新規のバイオマーカーの有用性を検証するパイロット調査を行った.
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