- 販売していません
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
運動はリハビリテーション(以下,リハ)医学分野にも機能回復のために利用されている.運動の反復は筋疲労を引き起こすことが多い.また,微細な運動の継続は機能回復に重要な役割を果たしている.運動反復によって起こる筋疲労や動きの改善が大脳皮質運動野の興奮性にどのような変化を及ぼすかに焦点をあてて報告する.
ヒトの大脳運動野の皮質内興奮性は近年,経頭蓋磁気刺激法(transcranial magnetic stimulation:TMS)(Magstim社製,Magstim200)を用いて評価されるようになってきた.Kujiraiら8)は,最初に二重経頭蓋磁気刺激法(paired-pulse TMS)を用いて運動野の皮質内抑制(short-interval intracortical inhibition:SICI)および促通(intracortical facilitation:ICF)の機序について報告した.条件刺激(conditioning stimulus:CS)とテスト刺激(test stimulus:TS)との刺激間隔(interstimulus interval:ISI)が,1~5msにすると抑制を起こし,10~15msでは促通を起こすというものである.本研究では刺激強度としてはCSのTMS強度は安静時閾値(Resting motor threshold:RMT)あるいは微弱筋収縮時閾値(Active motor threshold:AMT)以下の強度を活用し,TSのTMS強度は約1mVが誘発できる強度に設定した.この刺激法は刺激間隔と刺激強度の組み合わせでSICIやICFを評価することができる.Ziemann18)は,TMS and Drugsの総説で運動皮質興奮性に及ぼす薬理効果を解説した.GABAA作用薬であるLorazepamやDiazepamの投与はSICIを増強させGABAAが関与することを指摘した.Ljubisavljevic9)は,運動学習で起こる可塑的変化を二重TMSによるSICIで評価できることを総説した.二重TMSによるSICIは,皮質脊髄路の興奮性増大や神経伝達物質であるGABAAと関与し,SICIの低下から可塑的変化を予測できると指摘した.ここでは,リハ現場で行われる運動(筋収縮活動)によって生じる筋疲労や細かな作業による運動学習と大脳皮質運動野の皮質内抑制との関係についていくつかの研究を紹介する.
我々が用いた筋疲労と運動学習の研究は刺激間隔と刺激強度の実験条件をほぼ同一に設定した.筋疲労実験の運動強度は50%MVC(maximal voluntary contraction:MVC)を用い,筋収縮の種類は疲労困憊に至るまでの持続的な等尺性筋収縮や等張性筋収縮を選択した.一方,運動学習ではタイピング練習をブラインドタッチができる熟練者や初心者を対象に,短期練習と長期学習および非学習の成果や技能獲得の定着を検討し,さらに,タイピングイメージの関係を実験した.刺激間隔はCSとTSのISIは2,3,10および15msとし,刺激強度はCSで80%AMTとTSで約1mVを誘発できる強度を設定した.
Copyright © 2011, The Japanese Association of Rehabilitation Medicine. All rights reserved.