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笹沼澄子先生がご逝去されてから3か月余が過ぎましたが,改めてその存在の大きさを痛感しています.先生はわが国に言語聴覚障害分野を拓かれたパイオニアであり,先生なくして本分野の今日の発展はなかったものと思います.若い世代は先生を書籍や論文上でしかご存じでない方が多いと思いますが,わが国の言語聴覚士のルーツとその成り立ちを知ることは自らの専門性を再確認し,深めることにつながると思います.笹沼先生は失語症・高次脳機能障害の研究・臨床において高名ですが,言語発達障害や構音障害など幅広い領域について研究業績があり,すべての障害領域を視野に入れて本分野を牽引されてきました.今回,笹沼先生への追悼文を書かせていただきましたので,多くの方に読んでいただければと思います.
COVID-19はまだ収束しそうにありませんが,このような状況下にあっても本誌には多様な観点からの研究が続々と投稿されてきています.OECDは研究を基礎研究,応用研究,開発研究に分類しています.基礎研究は,特別な応用・用途を直接的に考慮することなく,仮説・理論を形成するため,または現象・事実について新しい知識を得るために行う理論的・実験的研究です.応用研究は,基礎研究によって発見された知識を利用してその実用化の可能性を確かめる研究,既に実用化されている方法について新しい応用方法を探索する研究です.また開発研究は基礎研究・応用研究などから得た知識の利用に関する研究で,新しい材料・装置の導入や改良などが該当します.いずれの種類の研究も重要ですが,本分野は現在のところ応用研究が盛んであり,基礎研究がやや少ないように思います.これは本分野の特性を反映しているものと思いますが,基礎研究は応用研究や開発研究の基盤となるものであり,言語聴覚療法の科学的根拠の解明や新しい臨床技術の開発を進めるうえで必要不可欠な研究です.今号には基礎研究の論文が3編掲載されていますが,基礎研究への取り組みがさらに増えることを期待したいと思います.
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