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1.はじめに
有料老人ホームの65.3%が看取りを実施し1),看取り率(=看取り÷(死亡+転居))は23.3%となっている2).今後,言語聴覚士(以下,ST)が看取りにかかわることは多くなると予想される.看取りについては,ターミナルケアやグリーフケアという観点から研究や報告がなされている.ターミナルケアとは,「方針を決める際に,患者はそう遠くない時期に死に至るであろうことに配慮する」ケアで3),身体的(痛みや症状),精神的(抑うつや不安),社会的(仕事や家族),スピリチュアル的(信仰や実存的問題)なケアを行う4).安藤ら(2011)5)は,理学療法士のターミナルケアの役割として疼痛緩和,安楽なポジショニング,廃用症候群防止,精神面のフォローを挙げている.徳田ら(2009)6)は,STのターミナルケアの役割として摂食嚥下の評価と指導があり,「誤嚥のリスクがあっても希望する食物をなるべく安全な形態に工夫して摂取できるように」するのがよいとしている.山本(2018)7)は,特別養護老人ホームの職員が看取り期でSTに望む業務は経口摂取可否の評価であることを報告している.
また,近親者のグリーフワークをサポートすることも看取りでは重要となる.グリーフとは愛の対象を失った悲しみのことで,故人のいない世界に適応していく過程をグリーフワークという8).「重要な他者を喪失した人,あるいはこれから喪失する人に対し,喪失から回復するための喪(悲哀)の過程を促進し,喪失により生じるさまざまな問題を軽減するために行われる援助」をグリーフケアといい,故人の生前から開始される9).大西ら(2012)10)は,看護師によるグリーフケアとして「(看取りをする)夫の辛さを受けとめ介護したい気持ちを尊重する関わり」を行い,「看取りの場では『お風呂に入れたい』という夫の希望に沿い夫婦二人だけの最後の時を設けた」ことを報告している.
このように,STがターミナルケアで果たす役割の1つに摂食嚥下の評価と指導があることは先行研究から明らかにされているが,STがグリーフケアで果たす役割についての研究や報告は見あたらない.今回,有料老人ホームの看取り事例において,STがターミナルケアとグリーフケアで果たした役割を検討したので報告する.
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