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1.はじめに
覚醒下腫瘍摘出手術は,脳腫瘍周辺の機能領域に対する損傷を避けつつ,腫瘍を最大限に切除することを目的とした術式で,通常の開頭腫瘍摘出術に比べて腫瘍摘出率,術後後遺症,生命予後の点で優位とされる1,2).言語野近傍の腫瘍に対する覚醒下手術では,術中に患者を覚醒させ,言語タスクを実施する間に患者の脳表に電気刺激を与えてその機能を一時的に低下させ,電気刺激によって誘発または抑制される言語症状から患者の機能領域を同定する(図1).術者はこの皮質マッピングの結果を考慮して腫瘍の切除範囲を決定する3).また,言語に関わる神経線維近傍の腫瘍切除術では,脳白質に電気刺激を与えて陽性反応を観察する皮質下マッピングも行われる4).
本邦では,2012年に日本Awake Surgery学会が世界初の英語版覚醒下手術ガイドライン5)を,また翌年には日本語版ガイドライン6)を発表した.さらに,2014年には覚醒下脳手術施設認定制度が始まり,2015年には脳腫瘍覚醒下マッピング加算の算定が可能となった.2016年には全国で105件,2017年には185件の覚醒下腫瘍摘出術が施行され7),今後覚醒下手術を行う施設はさらに増えるものと予想される.
覚醒下手術は多職種によるチーム医療であり,言語・高次脳機能の専門職として言語聴覚士もその一端を担う.当院においても,2016年より言語聴覚士が覚醒下手術に参加し,術前評価,術中マッピング,術後評価とリハビリテーションを行っている.覚醒下手術は世界的に広く行われているが,各国の覚醒下手術における言語聴覚士の役割を知る機会は少ない.今回,英米の2大学病院に勤務する言語聴覚士とともに,当院を含めた3大学病院の覚醒下手術における言語聴覚士の業務内容を比較し,課題や今後の展望について考察したので報告する.
なお,本稿の要旨は,The American Speech-Language-Hearing Association Convention 2019において,各病院の言語聴覚士と共同で発表した.また,言語聴覚士の職名は各国で異なるが(英国:Speech Language Therapist,SLT/米国:Speech Language Pathologist,SLP/日本:Speech Therapist,ST),本稿では便宜上,一律に「言語聴覚士」と記載した.
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