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Ⅰ.はじめに
平成10年に言語聴覚士法が施行され17年が経過したが,この間,言語聴覚士養成校は増加を続け,毎年約1,600人の言語聴覚士が誕生している.言語聴覚士の養成教育は厚生労働省指定の言語聴覚士養成施設指定規則(平成10年公布)に基づいて実施されているが,同規則では科目と単位数の指定はあるものの,教育内容に関する具体的な記載がなく,養成校は「国家試験出題基準」(医療研修推進財団,2013)などを参考に教育内容を決めている現状がある.
一方,この17年間における言語聴覚障害学および関連分野の学問の進歩は著しく,修得すべき知識・技術が増大する一方で,大学に入学してくる学生に学力レベルの低下がみられ(岩崎,2012),従来の方法では十分な学修が困難となってきている.
このような状況を改善する方策の1つとして,修得すべき知識・技術を精選して体系的に示したモデル・コア・カリキュラムを作成し,これを分野全体で共有することが考えられる.モデル・コア・カリキュラムは,言語聴覚士を目指すすべての学生が卒業時までに修得すべき必要最小限のコアとなる学修内容を到達目標によって示すものである.
平成22年の言語聴覚学会(さいたま市大宮区)におけるシンポジウムで,藤田(2011)は約73%の養成校が分野で共有する到達目標,学習内容,評価方法などが必要であるとする調査結果を報告している.また,平成20年の日本言語聴覚士協会教育部の調査(内山,2009)でも約81%の協会員が共通の教育カリキュラムが必要であると答えている.そこで言語聴覚士養成教育を充実させるには「言語聴覚士養成教育ガイドラインとモデル・コア・カリキュラム」の作成と共有化が重要と考え,有志が日本言語聴覚士協会に諮問委員会の設置を提案し,平成24年11月に「言語聴覚士養成教育モデル・コア・カリキュラム諮問委員会」が発足した.
医療福祉にかかわる他の専門職養成課程では,医学,歯学,薬学などの分野ではすでに教育ガイドラインとモデル・コア・カリキュラムが完成し,これに基づいた教育が行われている.また,理学療法分野では平成16年から教育ガイドライン作成に着手し,平成22年に教育ガイドライン(1版)が発行され,作業療法分野でも平成24年に教育ガイドラインが発行されている.これに先立って,平成11年には理学療法士・作業療法士養成施設指定規則の大綱化も実施された.大綱化とは,教育課程を一般,専門,外国語,保健体育の区分と卒業単位数のみで示し,各養成校が教育目的に応じて授業科目を自ら開設し,体系的にカリキュラムを編成することを表す.大綱化後の理学療法士指定規則をみると,専門基礎領域が「基礎理学療法学,理学療法評価学,理学療法治療学,地域理学療法学」となっているのに対し,まだ大綱化が行われていない言語聴覚士指定規則では「基礎医学(医学概論,病理学,解剖学…),臨床医学(内科学,小児科学,耳鼻咽喉科学…),心理学,言語学,音声学,音響学等々」科目数も多く,言語聴覚障害専門以外の科目数が2倍近い状況である.
言語聴覚士養成教育のミニマム・エッセンシャルズを明確にして,社会の要請に応えるためにカリキュラムの検討は本分野の喫緊の課題である.本諮問委員会が目的とする「養成教育ガイドライン・モデル・コア・カリキュラム」は言語聴覚士養成教育の指針を提示するものであり,これによって養成教育の到達目標や必要最小限の教育内容などを共有し,教育の質を担保することを目的としている.
言語聴覚士養成教育モデル・コア・カリキュラムは,言語聴覚士になるために,何をどこまで修得するかを科目の枠を越えて到達目標で示すもので,次の方針を想定して進める予定である.①卒業までに修得すべき必要最小限の学修内容を体系的に示す.②履修時間数(単位数)の2/3程度を対象とする.③養成校は目標を達成するために科目を適切な単位数で組み,教育法を工夫して展開する.こうした方針で作成する言語聴覚士養成教育ガイドライン・モデル・コア・カリキュラムは,指定規則の見直し(大綱化)に向けて,また国家試験出題基準の改定の際の日本言語聴覚士協会の資料として活用されることを期待している.
言語聴覚士養成教育ガイドラインとモデル・コア・カリキュラムの作成にあたっては,全言語聴覚士の賛同を得て,実際に活用できるものを提案することが肝要である.そこで作成に先立って,全国の養成校および臨床実習施設を対象として,言語聴覚士養成教育に関する実態調査を実施したので報告する.
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