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この「巻頭言」の執筆依頼をいただいたのは,2020年2月,まさに私のホームである北海道で,「新型コロナウイルス」の感染への心配がささやかれ始めた頃。その後,北海道は全国で最も早く独自の「緊急事態宣言」が出され長い外出自粛生活に入りました。そして現在も「新しい生活様式」へのシフトチェンジの真っただ中です。2月にはこのような状況は想像すらできませんでした。利用者さんや家族の生活も,生活を支援する私たちの仕事の仕方も,施設の在り方も,研修や地域の学びの場も,何もかも「感染予防」のための新しいスタイルが求められています。感染拡大時期は,これまで準備していたものに加えて,この未知のウイルスを追いかけるように,できる限りの感染予防策を行い,いつも通りの訪問リハビリを続けてきましたが,「これで大丈夫だろうか」という心配は消えず,思考も行動も内向きになっていったように思います。しかし,この思いもよらぬ事態をどうにか過ごした今だからこそ,気がついたことやこの先に向けてやっておかなければいけないことがあるような気がします。
個人的なことでは,会えない友人から久しぶりに手紙を貰い新鮮な気持ちになりました。訪問先のお母さんからは,「学校も休校,児童デイサービスもお休み,どこへも行けないけど訪問リハさんは毎週来てくれるから嬉しい」と言っていただき,「こちらこそありがとう」と訪問を続けられる喜びを感じました。会議ができずに進まなかったミッションも苦手だったオンライン会議で解決でき,その便利さも痛感しました。そんな変化を感じつつも,どうにも頭を切り替えられないでいたところ,一緒に介護予防事業に取り組む後輩PTから,「ソーシャルディスタンスではなく,フィジカルディスタンス(身体的な距離をとる)という言葉を使おう。WHOもそう言っているよ」と教えてもらう機会がありました。「うーん,なるほど!」です。以前,尊敬する訪問リハの先輩から,障害をもった方は身体的な廃用だけでなく,「関係性の廃用」に苦しむ,というお話を聞いた時と同じような気持ちになりました。「いいね」や「へぇ」ボタン(古すぎる)を連打するくらいの衝撃です。そうです,距離をとらなければいけないのは,感染予防のための身体的距離であり,心を寄せて気遣うことや,辛さを分かち合うこと,成長や変化を喜びあうことは離れていてもできるのです。そしてリハ専門職として利用者さんの生活がコロナに負けずに過ごせるように,できうる限りの対策をとること,勉強会や研修で一緒に学んできた訪問リハに携わる仲間や地域の多職種の仲間たちと情報共有したり,違う形の学びの場を模索すること等々,内向きになっていた目線を外に向ければ,やれることも,やるべきこともたくさんあるのだと気がつきます。
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