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はじめに
2018年夏,目白大学保健医療学部作業療法学科の主催する英国視察研修においてRoyal Hospital for Neuro Disability(以下,RHN)を訪問した。RHNは1854年にロンドン南西部パトニーに設立された神経疾患専門病院である。このRHNは神経疾患患者の長期的なケアを目的に設立された病院であり,National Health Service(以下,NHS)に属さない独立した医療機関である。イベント等を開催し多くの寄付や募金を得るという,独自の資金調達のもとに運営されている病院である。また退院後,多く患者たちがボランティアとして病院の活動に参加していることがホームページに紹介されている。この病院の対象者は脳損傷,脳疾患,または神経学的な疾病のために退行性または進行性の症状を有する,あるいはその可能性のある人々であり,NHSからの紹介やイギリス国内だけにとどまらず,全世界から対象者を受け入れている。
この病院の病床は227床あり,2018年には216床が稼働しており,3つの部門が設置されていた。そのうち内訳は,1)専門サービス:脳損傷後の神経行動リハビリテーションユニット(The Neuro-behavioral Rehabilitation Unit),ハンチントン病患者に対する専門的なユニット(Huntington's disease Unit),人工呼吸器サポートが必要な人を対象とする喚起ユニット(Ventilator Unit),2)脳障害サービス:複雑なリハビリテーションを必要とする人々や長期意識障害(Prolonged Disorders of Consciousness)を有する人々に対するリハビリテーションサービス,3)ナーシングホーム:専門のケアを必要とする,非常に複雑な身体障害および認知行動的ニーズを有する患者が療養する部門(Cognitive Behavioral needs Unit)に分けられている。その中でも積極的なリハビリテーションを行う脳障害サービスは約50床あり,平均入院期間は約17週とのことであった1)。
作業療法室の隣には芸術療法室が設置されていた。作業療法部門は積極的なリハビリテーションにかかわるチームとQOL向上を目的とした療養チームに分かれていた。RHNでの提供されるリハビリテーションは多岐に渡り,理学療法や作業療法だけではなく余暇活動の提供およびQOLの向上を目的として芸術療法,身体的・感情的・社会的・コミュニケーションなどのニーズを満たすための音楽療法に力を入れている。またCompass Assistiveという技術サービスがあることが特徴である。このCompassチームでは通信やコンピュータの使用や電動車椅子での移動などの活動が行えるようにアシスティブテクノロジーを用いた支援をしている。チームには電子工学およびリハビリテーション工学技術の専門家と,STやOTなどの医療専門職が含まれている。
本稿ではRHNのコンピュータ治療室で神経疾患患者のQOLを向上させるための音楽療法とバーチャルリアリティ(以下,VR)を用いたリハビリテーションを中心に,わが国の音楽療法やVRの活用との違いを報告する。
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