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ソーシャルワーカーを目指したきっかけは,大学生の頃の療育キャンプでの子どもやその家族との出会いであった。障がいのある児童の家庭を訪問し,ケアを習い,好きなことや好きな遊び場所を教わり,親から離れ,宿舎で3〜5日過ごす。訪問した家庭では常に医療や教育とのやり取りが感じ取れ,産まれてからの歩み,家族の歩みがひしひしと伝わってきたことを覚えている。療育キャンプ中は,小児科医や当時の養護学校教員,ソーシャルワーク分野の教育研究者のサポートを受けながら,個別ニーズに応じたプログラムを組み立て,子どもたちが寝静まった後,保護者向けに日々の様子をつづる。一日を振り返り,変化に応じて翌日のプログラムを話し合い,かかわりで生じた葛藤や迷いを題材としたスーパービジョンを受けていた。プログラムを介し,人と人との関係において,子どもたちにさまざまな変化が生まれ,嬉しい体験もあれば,無力さを痛感し,仲間やスーパーバイザーによって気持ちが救われるような思いもした。たった4年間ではあるが,児童や兄弟,家族の変化そして成長を実感し,さまざまな関係の中で,本人や家族それぞれに歩みがあることを学んだ。支援者を支援することの大切さを教えてくれたのもこれらの日々であった。
やわたメディカルセンターはリハや予防医学に力を入れており,疾病や交通事故などで,日常の生活を絶たれた患者と出会い,その後もなんらかの接点があることも少なくない。「こんなはずではない」「なぜ自分が,家族が…」そんな思いを抱き,当事者本人も家族も日々現実と直面し,葛藤を抱え,未来に絶望し,感情を吐き出せないままでいることもある。誰もが医療を受けられる時代になり,ソーシャルワーカーが,心理社会的なさまざまな生活課題について,チームの一員となって参画するようになって久しいが,ソーシャルワークの原点は,なんら変わることはない。目の前の一人の患者および家族に真摯に向き合い,寄り添うことである。私たちが出会う患者や家族は,治療や生活を巡るさまざまな意思決定に直面し,当たり前の日常が絶たれている状況下で,いつも以上に困難な決定を迫られている。筆者はこれまで出会った患者から,患者や家族それぞれに「生き方の癖」があることを教わった。一方,入院期間が短縮し,医療機能分化も進むチーム医療の過程では,生活移行を目指す個々の専門職,関係構築途中の在宅介護の専門職や機関が,何が最善か,そのプロセスが適切か,常に問うているが,当事者である患者や家族と課題に向き合った時,「生き方の癖」に合わないこともある。
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