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はじめに
ほとんどの晴眼者は朝,洗顔後に鏡を見ながらなんらかのメイクをしています。何気ない当たり前の作業ですが,視覚障害者はさまざまな困難に直面します。全盲の方は鏡を見ることができません。ロービジョン(低視覚)の方は鏡に顔を接近させたり拡大読書器,iPadなどで拡大させたりして顔の一部を見ることができても,鏡と顔の距離が近いために間にメイク筆・ブラシなどの道具を持ち込むことが難しく,さらに顔全体を見てパウダー・眉・口紅・ほほ紅を描くことは困難です。
中途視覚障害の方はそれまでの習慣で勘を頼りに眉や口紅を描いています。出会う晴眼者は,実は眉ラインがずれていたり口紅がはみ出ていたりしても,気を遣ってそのことを指摘することはほとんどありません。しかし,帰宅後に家族にその点を指摘されると,一日中その状態で人前にいたことに思い至り,深く傷ついしまうことも少なくありません。また,先天性や小児期早期からの視覚障害者には,教育や生活訓練は行っても,メイクを教える機会はありません。
視覚に障害のある女性の多くはいつの間にかメイクを諦めてしまうのが現実です。医療や福祉の場で安易に「お化粧しなくても大丈夫,可愛い,きれい」などと言っていないでしょうか。当事者は「できない」を「できる」へのサポートを求めているにもかかわらず,「しなくてよい」というニーズとまったく異なる選択枝を提案していないでしょうか? 「できる」「できるけれどもしない」ということを選択する権利は当事者にあるはずです。自立を支援する立場にいる者は当事者の自立への思いに応えるために,見えなくてもできるメイク技法を伝えることは使命であり,真のケアであると思います。
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