連載 感性の輝き・第29回
地域ののりしろとして
鈴木 康之
1
1多摩歯科医院
pp.829
発行日 2015年11月15日
Published Date 2015/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5003200258
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私が今の歯科診療所で働き始めて約2年半が経過した。祖母の代から私で3代目になる診療所は築40年を超える。ここで診療を始めたのは,先代の院長である父が倒れ,そのまま亡くなったことがきっかけである。父は亡くなる3年ほど前から間質性肺炎を患っており,最後の1年はHOT(在宅酸素療法)を行いながら診療を続けていた。「仕事をしながら死にたい」と常々言っていた父にとって,前日まで診療をし,休診日に亡くなったのは納得の終い方だったかもしれない。
しかし翌日以降,何も知らない患者さんのアポイントをどうするのか? 正直いろいろ混乱していたが,その時は迷いなく私がやらねばという妙な覚悟があった。なぜそう思ったのかは,わからない。当時,私は別のところで勤務医をしていたが,院長先生にご理解をいただき,非常勤での兼務を認めてもらうことができた。退職をお願いしなかったのは,当初,予約の入っている患者さんたちの治療が落ち着いたら診療所をいったん閉めようかとも考えていたこと,父とは継続して一緒に働いたことがなかったため,あくまでこちらが代診という感覚だったのかもしれない。
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