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はじめに
がん治療はこの10年で大きく変わった.抗がん剤,分子標的薬,免疫チェックポイント阻害薬,ビスホスネート製剤,放射線治療などの治療の進歩および集学的,全身的治療が可能となった.がん治療の進歩によって延命効果が向上し,がんと共存する時代になり,一方で入院期間は短縮され,治療の外来移行化が進んでいる.がん患者が増加すれば,必然的に骨転移患者も増加する13).骨転移の中で転移性脊椎腫瘍はほかの骨転移とは異なる.病的骨折や麻痺などの骨関連事象(skeletal related event:SRE)3,19)が起こると,著しく日常生活動作(activities of daily living:ADL)の障害や生活の質(quality of life:QOL)の低下を引き起こす.ADLの障害をきたすと化学療法や放射線療法などの適応から外れるため,結果的に余命にも影響を及ぼす8,9).また,治療の外来移行化の阻害にもなってしまう.脊椎のSREは腫瘍学的緊急事態である18).
骨転移に対する手術療法は姑息的手術と根治的手術に分けられる12).根治的手術とは,がんを完全に取り除き病気を治そうとする手術であり,姑息的手術とは,がんをすべて,または一部取り除き,疼痛や症状を軽減し患者のQOLを改善するための手術である.転移性脊椎腫瘍に対する手術療法は,脊椎に転移してきた時点で全身疾患であることから,根治が目的ではなく,QOLを改善するための姑息的手術となり得る.
転移性脊椎腫瘍の痛みの原因は3つあるとされている10).Biological pain,radicular pain,そしてmechanical painである.われわれ脊椎外科医は,radicular painに対しては神経の除圧を,mechanical painに対しては脊柱の再建を行ってきた.従来の姑息的手術では,これらの痛みや症状を軽減し,患者のQOLを改善することが目的で行われてきた26).近年,total en-block spondylectomy(TES)のような局所根治を目指す治療22)や,低侵襲に脊椎を固定する手技,いわゆる最小侵襲脊椎制動固定術(minimally invasive spine stabilization:MISt)が普及し,転移性脊椎腫瘍に対する手術の意味合いが変化してきている2,16,20,24).すなわち,従来の痛みや症状の軽減だけが目的ではなく,患者のADLを引き上げ,手術後の化学療法や放射線療法へつなげることが目的となってきている2,24).これまでは,姑息的という表現は一時的や対症療法的という意味合いで用いられてきた.しかし筆者らは,がん治療の日進月歩の発展に伴い,転移性脊椎腫瘍に対する姑息的手術は,未来につながる架け橋となり得る手術になってきていると考えている.本稿では,筆者らの転移性脊椎腫瘍に対する手術方針を紹介し,さらにSREの発生前に行う予防的手術とSRE発生後に行う手術における治療成績の差に焦点を当て,SRE発生前に行う手術の有用性について考察する.
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