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骨を扱う整形外科・脊椎外科では,X線による患者および術者の放射線被曝は避けて通れない.X線装置の進歩によって,以前に比べて被曝量が軽減されている検査や手技も多く,MRIのお陰で施行頻度が激減した脊髄造影の例もあるが,正確な診断への要望(責任高位決定のための神経根ブロックや血管走行把握のための術前CT angiographyなど),手術手技の高度化・低侵襲化(PPSなど)によって患者・医療者ともに被曝機会が格段に増加しており,トータルの被曝量は増えているのが現実だろう.放射線は,浴びていても人間の五感で感じられないことや,手術術者としては少しぐらい被曝が増えてもレントゲンコスメトロジーを優先する傾向があるため,必要以上に被曝してしまうことも多い.かくいう私の右母指にも,しっかりと爪甲色素線条が存在している.若い時代には被曝をそれほど気にしなかったし,より正確な診断や術後の美しいX線,CTのほうが大切だった.
振り返ってみて思うに,最も大きな問題は,これだけ多く放射線を扱うにもかかわらず,整形外科や脊椎脊髄外科領域において放射線に関する卒後教育がきちんとなされていないことである.最近は患者および医療者への放射線被曝に対する関心は高まってきてはいるものの,「根性で激務に耐えるのが美徳」「患者のために自分を犠牲にすることが当然」といった体育会系文化で育った指導医が,習ってきた通りに後輩を教育していることも多い.最近も,こまめに術中透視を切るように言ったら「前の病院では骨折の整復中に透視を切ると怒られた」と若い医師が話していた.同様に,患者被曝に関して無頓着な医師も多い.特殊なケースではあったが,前医が脊髄腫瘍摘出術後の頸椎後弯を気にするあまり術前後の2週間で5回の頸椎CT撮影を受けた若い頸椎後弯患者を紹介されたことがある.外国で手術を見学すると,透視を出す時間が圧倒的に短く,文化の違いを感じる.確かに日本人医師の入れた椎弓根螺子のほうがきれいに揃ってはいるが…….
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