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近年,頸椎インストゥルメンテーション手術は目覚ましい発展を遂げてきた.さらに最近はsagittal alignmentの重要性が認識されて,前後方同時手術や頸椎椎体骨切り術などが増え,ますます頸椎インストゥルメンテーションの需要が高まってきている.そのような中で,医原性椎骨動脈損傷は避けては通れないリスクである.制御困難な大量出血だけでなく,虚血や塞栓による小脳や脳幹の梗塞のため重篤な後遺症を残すこともあり,ときには死亡例も報告されている.しかし,実際に椎骨動脈損傷の経験のある脊椎外科医は少なく,特に整形外科医は血管病変や術中の血管の取り扱いに慣れていない.自分が遭遇したとき,術中だけでなく術後もどう対処すればよいかわからないというのが正直なところであろう.脊椎外科医として一生の間に一度も椎骨動脈損傷を経験しないのが理想ではあるが,今後難度の高い手術が普及していくにあたり,少なくとも予備知識だけはもっておく必要がある.
私は頸椎インストゥルメンテーションと椎骨動脈損傷について個人的な興味をもっていろいろと調べてきたが,常々血管病変に馴染みの深い脳神経外科,放射線科など他科の先生のご意見をうかがいたいと思っていた.今回の特集を組ませていただくにあたり,執筆者のほとんどが整形外科以外の医師となったのはそのためである.椎骨動脈の発生から始まり,変異,破格,そして医原性椎骨動脈損傷だけでなく外傷性椎骨動脈損傷,さらには慢性的な椎骨動脈不全の症候やbow hunter症候群など,実にさまざまな方向から論じていただいた.この特集をご一読いただくと,椎骨動脈について包括的な理解ができるとともに,いつも術野のすぐ近くにありながらブラックボックスであった椎骨動脈に対する見方,考え方も変わってくるのではないかと思う.企画時,「椎骨動脈のすべて」というのは大風呂敷を広げすぎたかとも思ったが,そのタイトルに恥じない特集になったと自負している.
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