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はじめに
令和4年版高齢社会白書によると,2021年10月1日における65歳以上の高齢者人口は3,621万人であり,総人口に占める割合は28.9%である.2007年に日本は65歳以上の高齢者の割合が21%を超えて,超高齢社会となった.高齢者人口の増加とともに脊椎疾患における手術治療対象者の年齢も上昇している2).2011年の全国調査では1年間で31,380例が脊椎疾患で手術されており,その中で最多の手術時年齢は70〜79歳で28.5%を占め,次いで60〜69歳が多く,24.6%を占めていた16).
高齢者は加齢による予備能・臓器機能の低下,併存疾患の存在,多くの常用薬,せん妄・転倒のリスクがある.元気な高齢者であれば手術のストレスを受けても手術前の状態に戻ることが多いが,脆弱な高齢者の場合は,基本の予備能力がなく,術後せん妄・転倒リスクも存在し,場合によっては術後の回復が遅く,手術前の状態よりも悪化する可能性もある.
患者やその家族,もしくは外科医,あるいは両者が最終的に手術を決定する前に,対象患者の生きることの全体像を包括的に捉え,評価する必要がある.これには国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health:ICF)の基本概念が当てはまる.ICFは2001年にWHO総会において採択された生活と障害の国際分類である.この概念では,健康状態は心身機能/身体構造・活動・参加の3つの要素から説明され,さらに環境因子と個人因子の背景因子により,これらは影響を受けることが示されている(図 1).患者にとっての病気の意味は,痛み・筋力低下などの心身機能の問題,歩行や食事・社会活動などの活動の問題といった生活機能に与える問題そのものにある.たとえば,対象者の独居や老老介護の状況・問題把握から,手術による痛み,筋力低下の改善によって何が期待できるのか? あるいは痛み,筋力低下が改善しない場合に,患者やその周囲に与える影響についても包括的に評価する必要もあると考える.
先に述べた高齢者特有の問題もあるが,手術加療が高齢者にとってすべて悪ではない.脊椎疾患を要因とする脊髄症,神経根症,筋力低下,腰痛などは日本整形外科学会が提唱したロコモティブシンドローム(ロコモ)の要因になり,その進行に関与する22).適切な手術加療はロコモの改善に寄与する報告もある11).疼痛を改善する,あるいはADLを改善するためだけではなく,対象者の健康寿命延伸のため,ロコモ対策としての手術治療介入の観点もわれわれには必要と考えている.
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