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脊柱運動のモーターコントロール
適切な関節運動を行うためには,図 1に示すように,単関節筋を先に活動させ,関節の安定性を得た後に,多関節筋を用いて大きな関節運動を行う筋収縮様式(モーターコントロール)が求められる.このような運動においては関節構造体に負荷の少ないneutral zone12)内での運動が行われ,関節への負荷が少ないと考えられる.しかし,コンディショニング不良などによって単関節筋が多関節筋よりも遅れて活動してしまう相対的活動遅延や単関節筋の活動低下が起きると,関節の安定性が得られないまま多関節筋による運動が行われることで関節の不安定性によるelastic zone12)内での関節運動が生じ,この繰り返しが関節インピンジメント障害や関節唇や関節周囲靭帯などの関節構造的安定性機構への過負荷をきたし関節障害を生じると推測される.また同時に,単関節筋の相対的活動遅延を生じさせる多関節筋の過活動は筋・筋膜への負荷を増し,多関節筋によって関節挙動を制御する際に生じる遠心性の収縮の繰り返しは,筋・腱・付着部への牽引性障害として,肉離れ(筋膜損傷),腱障害,付着部障害を生じさせる.
脊柱の運動も同様に,図 2に示すように,腹横筋や多裂筋などの体幹深部筋(単関節筋)が活動し脊柱の機能的安定性を得た後に,脊柱起立筋などの体幹浅層筋群(多関節筋)が活動して各脊柱分節がneutral zone12)内でなめらかに動くことが,適切にモーターコントロールされた分節運動であると考える.しかし,体幹浅層筋の過活動による体幹深部筋の相対的な筋活動遅延や体幹深部筋の活動低下によって,脊柱の安定性が得られる前に体幹浅層筋群の活動による脊柱運動を行ってしまうと,最も動きやすい分節(多くはL4/5椎間)に挙動が集中することになり,同分節の繰り返しの負荷によって関節障害としての椎間板障害,椎間関節障害が生じ,骨盤輪への過剰な負荷によっては仙腸関節障害を生じる4).また同時に,体幹浅層筋群の過活動によって筋・筋膜性の腰痛や,脊柱起立筋の牽引性障害として脊柱起立筋付着部障害が生じる.このように,腹横筋が体幹浅層筋群より先に活動する(feedforward活動)ことが腰痛予防に重要であるという脊柱モーターコントロールの概念3)は,オーストラリアの理学療法士であるPaul Hodgesらによって提唱され,数多くの研究が行われ,腰痛の運動療法としてのモーターコントロールエクササイズ(MCEx)の基本的な考えとなっている.
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