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本書の題名であるcritical thinkingは,直訳すると「批判的思考」ですが,否定しようとするのではなく,鵜呑みにせずに疑問を投げかけ,本質的な事柄に歩み寄る思考のことで,論理的,客観的,合理的に思考を展開する意味もあります.本書は,脊椎外科に関する諸事について,いずれの意味も含まれている内容になっています.本書初版は2008年に発刊され,当時の識者や脊椎外科医の多くに大いなる共感をもって迎えられました.発刊当時は,学会場の書籍売り場ではすぐに完売し,なかなか手に入れにくい書籍でした.私が購入した初版も教室員が次々に借りに来て,いつの間にかなくなってしまいました.初版が多くの共感をもって迎えられたのは,臨床現場の経験に基づく疑問,解決されていない問題,失敗について,当時の学説,常識とされていた事柄から思考を展開して深く洞察し,著者の意見(opinion)を率直に自らの言葉で述べていたためでした.
このたび,初版から13年経過して待望の第2版が発刊されました.ページ数は初版258ページから第2版330ページと約1.3倍になり,この13年間の脊椎外科の進歩を踏まえての登場となりました.新規項目や主な改訂内容については,色文字で明示されています.しかも,初版になかった多数の図が掲載され,文章の統一が図られるなど,学術書としても立派な書籍になりました.手術については,頸椎から仙骨までの術式と合併症が網羅されており,それぞれの術式について率直な経験談と意見を述べています.さらに,自らの実体験をもとにしたインフォームドコンセントの変遷,脊椎脊髄手術アトラスの紹介,統計学や英語論文の書き方(日頃から問題意識をもち,よい研究デザインで世に優れたメッセージをと強調)などについても,おしきせでない独自の意見を述べています.いずれも以前の大学教育では習うことのなかった事柄です(今はインフォームドコンセントを医療倫理で必ず教えることになっていますが).特筆すべきは,すでに確立されているような印象を与えている神経症候学,そして解剖学についても,著者の経験に基づいた深い洞察と意見を述べていることです.本書は通常の学術書と異なり,「星地亜都司」の脊椎外科医(教育者でもある)としての道程,思考の歴史でもあり,当時の時代を共有した脊椎外科領域の挑戦者たちの知見,業績のレビュー(personal viewも含む)でもあります.
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