Nomade
運動ニューロン病のおなかの違和感
関口 兼司
1
1神戸大学大学院医学研究科脳神経内科学
pp.1033-1034
発行日 2019年12月25日
Published Date 2019/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5002201262
- 有料閲覧
- 文献概要
脳神経内科を専門にしていると,かなり多くの筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者さんの話を聞くことになる.患者さんごとに症状の初発部位が異なるため,皆,毎月の経過をみる外来での訴えはさまざまである.ある人は利き手の筋力低下,筋萎縮に伴う包丁の使いにくさを訴えるし,ある人は階段を上るときに障害のある脚が「鉛のように」重いと表現されることもある.それぞれの訴えは客観的診察所見が出現する前のこともあり,患者が感じる軽微な不自由さはそのまま病態の拡大,進行を反映している可能性があると個人的に感じている.
その中で「長く座っているとしんどくなる」という訴えがある.これは診察上はっきりしなくても,背もたれのあるソファなどでは楽になるとのことから,頸部から胸部にかけての傍脊柱筋の筋持久力および最大筋力低下によるものが考えられる.近年の研究では,ALSの前角細胞の障害髄節は脊髄内を連続的に拡大していくとされており,下肢発症の患者さんから上記の訴えを聞いたときは,次は上肢か,と心配することになる.傍脊柱筋,とりわけ脊柱起立筋は臥床時以外,常に活動を強いられており,首下がりなどの姿勢異常が顕在化してきた後では,下部の脊柱起立筋には通常以上の駆動力が要求され,継続的な遠心性収縮負荷の増大が,より筋障害を助長するのかもしれない.このような訴えのある患者さんは同じ胸椎部の前角細胞支配である肋間筋などの脱神経も起こっていることから,やがて呼吸機能低下に対する対処が必要になることになる.
Copyright © 2019, MIWA-SHOTEN Ltd., All rights reserved.