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はじめに
脊椎の手術は基本的に除圧と固定であり,現在行われているさまざまな手術法もほとんどはこのどちらか,または両方(除圧固定術)に分類される.除圧は骨組織や椎間板を切除することが多く,固定術は固定椎間の生理的可動性を犠牲にするため,たいていの脊椎手術は障害された組織を完全に復元するものではなかった.それを考えると,人工椎間板置換術はもとの椎間板機能を再建することを目標としており,もしその目的が完全に達成されれば失うものがほとんどない点が画期的である.人工椎間板手術は,変性椎間板によって起こる頸部痛,腰痛,各種神経症状を,椎間板そのものおよびヘルニア,骨棘を切除することにより改善させ,切除した椎間板を人工椎間板に置換することで脊椎の生理的な機能を再建する.そして,それによって固定術の長期合併症である隣接椎間障害を防ぐことが期待されている.人工関節が関節外科治療を一変させたように,人工椎間板置換術も今までになかったコンセプトで,脊椎外科に新たな分野を切り開く可能性を秘めている.しかし,大きな期待をもって全世界に広がった腰椎人工椎間板置換術の成績は,必ずしもバラ色ではなかった.その結果を踏まえて,腰椎人工椎間板が日本に導入される見込みはほとんどなくなった.日本のdevice lagがよい方向に作用した数少ない例であろう.一方,頸椎人工椎間板は欧州から25年以上遅れて,2017年ついに日本で認可された.現在,日本脊椎脊髄病学会,日本脊髄外科学会が中心となって策定した頸椎人工椎間板置換術適正使用基準に基づいて,限定された施設で厳格な手術適応で頸椎人工椎間板置換術が始まっている.しかし,頸椎人工椎間板の使用が今後一般の病院にも広がっていくにつれて,不適切な適応拡大や合併症の増加が懸念される.頸椎人工椎間板手術が今後日本において健全に発展していくためには,人工椎間板の歴史と他国の現状を知っておくことがきわめて重要である.
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