Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
特発性前骨間神経麻痺(spontaneous anterior interosseous nerve palsy;特発性AIN麻痺)および特発性後骨間神経麻痺(spontaneous posterior interosseous nerve palsy;特発性PIN麻痺)は,いずれも①誘因なく突然発症することが多い,②発症前にウイルス感染やストレス,患肢の酷使や外傷などの誘因事象があることが多い,③前駆痛(麻痺発症前後の激痛)を伴うことが多い,④特有な麻痺形態をとり,感覚障害を伴うことが少ない,⑤自然回復することが多い,⑥難治例に対しては神経束間剝離術による神経束の「くびれ」解除が有効とされる,といった特徴をもつ原因不明の末梢神経麻痺として,本邦の手外科領域で認識されている9,11,20,30,34,39〜41,50,51,63,64).
しかしながら,1948年にParsonageとTurnerが記載したneuralgic amyotrophy(NA)の症例の中にAIN単独麻痺症例が含まれていた歴史的経緯44,54)の影響もあって,神経内科領域や米国はじめアジア,欧州の一部を除く世界中の整形外科/手外科領域では,特発性AIN/PIN麻痺はNAあるいは神経炎であって手術適応はない,と一般的に理解されているようである4,18,44,48,53〜55).
本邦手外科と欧米諸科の間で,なぜこのような認識の乖離が生じたのか? 特発性AIN/PIN麻痺とは何か?NAとは何か? その病態は何か? 両者の疾患概念を今後どのように整理し,理解していくべきなのか? どのように治療することが望ましいのか?……解決すべき疑問や課題は山積しているが,まずは本邦の神経内科医および整形外科医/手外科医がお互いの認識を共有することから始めることが,将来の問題解決に向けた布石として重要であろう.この特集をそのような貴重な機会の1つとして捉え,本稿では私見を交えつつ筆者の現段階における理解をご紹介させていただく.具体的には,「本邦手外科領域における特発性AIN/PIN麻痺の治療法の変遷」,「NAにも『神経束のくびれ』は存在する?」,「特発性AIN/PIN麻痺の症候と特徴とは?」,「神経束の『くびれ』の特徴」,「神経束の『くびれ』発生のメカニズムは?」,「神経束の『くびれ』は予後に関与するのか?」,「特発性AIN/PIN麻痺とNAの関係整理に向けて」,「特発性AIN/PIN麻痺とmultifocal motor neuropathy」,「特発性AIN麻痺の治療法」,「特発性PIN麻痺の治療法」,「特発性AIN/PIN麻痺に対する前向き多施設共同研究」,「広義のNAにおいて予想される病態と治療方針(私見)」の順に述べさせていただく.
Copyright © 2018, MIWA-SHOTEN Ltd., All rights reserved.