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はじめに
前骨間神経麻痺は非外傷性麻痺が多く,発症機序や病態は未だ不明であり1,2),末梢神経障害のなかでも確定診断と治療方針の決定が困難な疾患である3,4).われわれは本症に対して方形回内筋より導出した複合筋活動電位5)の分析を行い,確定診断と治療方針決定の一助としてきたので,その有用性を検討し,報告する.
対象と方法
1999年より2002年の間に経験した前骨間神経麻痺7例を対象とした(表1).男性6例,女性1例で,年齢は37~77歳,平均57歳である.6例は非外傷性麻痺であり,先行する病態として上肢の疼痛が2例,前腕の疼痛,変形性肘関節症(肘OA)の術後,肩関節脱臼後,結節性動脈炎が各々1例である.外傷性麻痺は症例6のみであり,水槽に肘屈曲位で上肢を挟まれて回内筋症候群の症状が発症し,局麻剤を用いた星状神経節ブロック療法を数回行った後に知覚障害が軽快して,前骨間神経麻痺の症状が残った症例である.また,症例7は5か月前に同側の手根管症候群の手術が行われている.発症後診断までの罹病期間は1~5か月で,平均2.9か月である.全例に長母指屈筋と示指深指屈筋の筋力低下を認めた(表1).前腕回内筋力は症例1のみ3と低下していたが,他の6例は筋力低下を認めず,明らかな知覚障害や上肢の筋萎縮もみられなかった.
電気診断は肘関節部で正中神経に最大上刺激を加え,表面電極の関電極を橈骨茎状突起の5cm中枢の前腕背側に置き,不関電極を橈骨茎状突起部に置いて方形回内筋(PQ)の複合筋活動電位(CMAP)を導出した(図1).患側,健側ともに導出し,立ち上がり潜時と基線から陰性頂点までの振幅を健側と比較した.自験例の健常成人10名(25~43歳)の計測値から,PQ-CMAPの潜時の左右差は0.09±0.03(msec,Mean±SD)であり,Mean±2 SDから0.15msec以下を潜時の対側差の正常範囲とした.また,振幅の左右差は0.95±0.82(mV)であり,Mean±2 SDから2.59mV以下を振幅の対側差の正常範囲とした.治療方針は原則として,PQ-CMAPの潜時または振幅の健側との差が正常範囲内の症例には保存的治療としてビタミンB12製剤投与を行い,明らかな潜時の遅延や振幅の低下を示す症例は2~3か月間経過観察して,回復傾向を認めない場合に神経剥離術を行った.
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