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分子標的薬をはじめとする新規抗がん剤などの医療技術の革新や高齢化が進む中で,国民医療費は年々増加している.一方で,保険料・公費(税金など)・窓口負担からなる財源の確保には限界があり,このままでは日本が世界に誇ってきた公的医療保険制度(国民皆保険制度)を維持することが難しいことは想像に難くない.このため,効率的な医療費の使い方を考えることは先送りできない課題となっている.こういった状況の中,中央社会保険医療協議会(中医協)に設置された費用対効果評価専門部会において,2016年度から薬価制度の中に医療経済学的な手法の試験導入がすでに開始されている.日本発の新規免疫チェックポイント阻害薬である「オプジーボ」が市販後2年5カ月で適応症拡大による市場規模拡大が医療保険財政に与える影響を懸念する声が急速に高まったことを理由に50%引き下げとなり,本年4月から用法・用量変更に対し再度12%引き下げられた.オプジーボへの市販後早期の引き下げ適応は,医療技術の進歩(イノベーション)と医療費について広く議論がなされるきっかけとなった.革新的医療を早期に患者のもとへ届けること,患者は治療選択の自由を有することと,社会が許容できる治療は必ずしも一致しないことが公に示された.
私の整形外科医としての医療経済問題との関わりは,2011年当時に勤務していた大阪南医療センター院長・米延策雄先生より,翌年より大学に戻る際に日本脊椎脊髄病学会で行うプロジェクト研究「慢性腰痛症の薬物治療の臨床経済研究」の補佐を行うように指示をいただいたことに始まる.当時の私はQALYなど知る由もなく,膨大な医療経済に関する論文をいただき途方に暮れながら,医療経済の入門書を数冊購入し研究計画の策定に加わらせていただいた.学会プロジェクト委員の先生方および全国の熱意ある脊椎外科医の先生のご協力により,整形外科の保存治療における費用対効果研究としては過去最大の500症例を超える登録をいただいた.慢性腰痛治療は多面的アプローチでの治療が主体であるが,依然として薬物治療は主要な一翼を担っている.また,介入が運動療法や心理的アプローチと比較して均一であることから,本研究成果の論文報告が急がれている.本研究開始後に,脊椎外科の学会で外科治療の費用対効果に関する報告も散見されるようになったことから,費用対効果研究の必要性を脊椎外科医が理解する端緒となったと考えている.
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