特集 脊椎脊髄疾患に関連する痛みのメカニズム
特集にあたって
田口 敏彦
1
1山口大学医学系研究科整形外科学
pp.597
発行日 2017年6月25日
Published Date 2017/6/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5002200647
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本号では,脊椎脊髄疾患に関連する痛みのメカニズムをテーマとした.医学の歴史は,「痛みと向き合う」ことで悪戦苦闘してきた人間の歴史といえるが,今日ほど痛みが話題になることはなかったように思う.これには,疼痛治療のための医療費の増大や勤労できない経済的損失など,痛みの社会的影響が大きくなってきたことがある.人類史上飛躍的に寿命が延びたにもかかわらず,痛みは不動をもたらし,精神的に元気であってもQOLを著しく低下させ,長寿が単に人生の苦痛時間の延長や社会負担の増加を意味するようになりかねない時代になった.このような社会的背景により,痛みは単に自覚症状の1つではなく,サイエンスの1分野として目覚ましい進歩をみせた.この10年で痛みの発症機序についての研究は,分子生物学の進歩により,従来の生物学や薬理学の領域にとどまらず,生化学や分子レベルでの解析までも行われるようになり,心理面も含めて多方面からのアプローチがなされるようになった.
国際疼痛学会は,痛みの定義を「組織の実質的あるいは潜在的な障害に結びつくか,このような障害を表す言葉を使って述べられる不快な感覚・情動体験である」とした.すなわち,「痛みは感覚でもあり感情でもある」としたのである.痛みのある場所だけにフォーカスを当てるのではなく,痛みを感じている仕組み,つまり疼痛部位から脳で痛みを認知する神経のほうから痛みの治療を考えるようになった.すなわち,mechanism based treatmentの治療が提唱されるようになった.
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