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はじめに
「肩こり」とは,医学的な病名ではなく症候名として用いられている.最近の厚生労働省国民生活基礎調査によると,肩こりは15〜64歳の年齢層の女性が訴える症状の第1位であり,35〜64歳の男性年齢層でも第2位を占める愁訴である.肩こりは国民病といえる.
肩こりは,本態性肩こり・症候性肩こり・心因性肩こりに大別される5).本態性肩こりの引き金となる危険因子としては,不良姿勢・運動不足による筋力低下・過労・寒冷(冬期,夏期冷房)・精神的緊張・加齢・素質などが指摘されている.この中でも大きな役割を果たしているのが,不良姿勢と運動不足による筋力低下である.
良い姿勢とは,立位時に横からみて耳と肩と腰と足が一直線上にある状態,すなわち頭の重心が体の重心と一致している姿勢である.これは,頭を支える頸椎の周囲筋に緊張がなく楽な状態である.不良姿勢の典型は,ねこ背でなで肩であり,顎が前に突き出たような姿勢である.頸椎は5kgという重い頭蓋を支えており,また,脊柱で最も可動域の広い部位である.さらに,肩甲骨を含めた肩甲上肢帯は,体幹に関節で結合されているというより,頭蓋・頸椎に懸垂している状態である.不良姿勢に加えて,肩甲上肢帯を保持している筋群の筋力低下が肩こりを誘発する.すなわち,肩甲帯が下がり僧帽筋・肩甲挙筋に対して牽引力が生じ,肩甲骨内上角の筋付着部が絶えず刺激された状態となる.これにより,筋虚血状態から続いてスパズムへと進む.次いで,これを包み込む筋膜群(前・後椎骨筋膜)の緊張を引き起こすと考えられる.同様に腕神経叢も伸長された場合,周囲の筋・筋膜からの刺激を受けるため腕神経叢牽引型胸郭出口症候群2,3)にみられる病態が生じる.この病態は,なで肩で華奢な体格の若年女性に多い.肩こりを含めた頸肩腕痛が,荷物を手に持って下げるなどの動作で増悪する.肩甲上肢帯を挙上支持し,腕神経叢をゆるめることにより症状が直ちに改善あるいは消失する.肩甲骨に注目すると,肩甲骨全体が下垂し外下方に傾き(下方回旋),内側縁から下角が突出した翼状肩甲を呈している.このような姿勢では,腕神経叢と肩甲上肢帯を支える筋群は絶えず伸長され緊張過敏状態となり,肩こり・疼痛・しびれの原因となる.腕神経叢も牽引刺激を受けることにより可逆性の神経血流障害1,4),神経内軸索流障害6)を生じ,症状発現に関与する.また,反復動作が神経に及ぼす影響も症状発現に関与すると考えられる7).
頸部痛や肩こりなどが精神的緊張や心理的要因によって左右されることが指摘されている9).職場での人間関係における問題,複雑な社会環境での欲求不満,心理的葛藤などが大きな要因となる.多くの調査でも慢性頸部痛を主訴とする患者群に神経症的傾向,神経症を呈する症例が多いことが報告されている9).また,肩こりを有するものは,頭痛・めまい・吐き気などの自律神経失調症状を訴えることがある8).
以下に肩こりの診断のための問診・診察・検査について述べる.
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