Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
神経学的診察による局在診断は,検者の診察能力ばかりではなく,被検者の理解や協力,解剖学的個体差などにも影響されるため,基本的ではあるものの実際にはより専門的な知識と技術が要求され得る.しかしながら,卓越した診察術をもってしても脊椎脊髄疾患において明らかに不可解な神経徴候を示す症例にもまれながら遭遇する.これらは偽性局在徴候(擬似局在徴候:false localizing sign)と称され,神経疾患を診察するうえで留意する必要がある7,20).
大後頭孔部近傍で脊髄に圧迫性障害が生じると多彩で複雑な症候を生じることは古くから知られていた8).しかしながら,①特徴的な初期症状や身体所見は乏しく神経学的高位診断が難しいこと,②常に一定の症状ではなく,ときとして増悪や寛解を繰り返すこと,③進行が遅い良性腫瘍が圧迫因子となることが多いため,症候や経過が頸椎症など頻度の高い頸椎変性疾患と類似することも多く,的確な早期診断が困難な部位とされてきた12).また,MRIが普及する以前の時代では頭蓋頸椎移行部は画像診断の盲点となりやすく,緻密な神経局所診断学に基づき,能動的な画像評価に至らない限り確定診断がつきにくい病変であったと推定される.責任病変が頭蓋頸椎移行部の髄外腫瘍であったにもかかわらず,頭頂葉病変が疑われ開頭手術が行われた例,頸椎症性脊髄症が疑われ中下位頸椎手術が行われた例,多発性硬化症が疑われ保存治療が長期に行われた例などが挙げられており,ほかの診断機器に多くを頼れず医師の診察能力が患者の命運と直結していた時代では,詳細な神経徴候の観察がいかに責任重大であったかが鑑みられる.
現在は頭部,頸椎MRIのスクリーニングを行えば,画像上の見落としはほとんどなくなるため,発見が遅れ重症化するものや大後頭孔症候群の典型的な所見がそろう症例はまれであるが,脊髄疾患の診察や治療に携わるものとして,大後頭孔症候群の徴候,特に何が神経局在診断においてpitfallとなりやすいかを認知しておくことは重要である.
Copyright © 2015, MIWA-SHOTEN Ltd., All rights reserved.