むつみ庵の日々・第8回
地べたを歩く
日髙 明
1
1NPO法人リライフむつみ庵
pp.985
発行日 2022年8月15日
Published Date 2022/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001203101
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ガラッと戸の開く音がして振り返ると,外に出て行くヒライさんの後ろ姿が見えました.ヒライさんは,半年ほど入院していた病院から,最近むつみ庵へ入所された男性です.いつの間にか庭に出ていることが度々あるヒライさんですが,ありがたいことにグループホームむつみ庵の庭はとても広いので,その中を自由に散歩していただけます.よく歩かれるので,入ったばかりのときはひどかった足のむくみも幾分引いたようです.この日も,ヒライさんは庭の中の小道を一歩一歩確かめるようにゆっくりと歩いていきます.
入所してしばらく経った日の就寝前に,こんなことがありました.自室で着替えていたヒライさんが,おもむろに「今日は何日やったかな」と,見守っていた私に尋ねました.私が答えると,ヒライさんは棚の上のノートを広げ,ペンを手に取ります.「何日って?」,「15日です」,「んー,11日ちゃうの?」.ノートに書かれていたのは,飛び飛びになった日付の短い日記でした.ヒライさんにうかがって承諾をいただき,横から覗かせてもらうと,そこには新しい生活への期待や,混乱する記憶への不安が綴られていました.正確ではありませんが,おおよそ次のようなものです.
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