連載 野道を行けば・9
街を歩く
頼富 淳子
1
1(財)杉並区さんあい公社
pp.740-744
発行日 1996年9月10日
Published Date 1996/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662902831
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犬
杉並は落ち着いた住宅街がその多くを占める。静かな日当たりの良い路地を歩く。最近はお年寄りや子どもの姿もめっきり減って,時には行き交う人より猫の数の方が多い。猫が暇そうにノソノソ歩いていると,まだ何もしないで生きていることが許されているものがいるということにホッとする。私が子どもの頃は犬なんかもそこら中をやたらクンクンと嗅ぎながらウロウロしていたものだが,今は姿が見えないばかりか声もしない。時折電柱に「犬の無駄吠えをなくします」という広告が貼ってあるのを見かけるから,犬も戦々恐々だ。
人には無駄と思えるかも知れないが,犬には“ワン”という言葉しかないのだから,お腹が空いたも,お散歩行こうも“ワン”ですますしかないではないか。人間はあまりにも無理を要求しすぎではないか。私は犬年でも猫年でもないが,一言加勢したくなる。因に我家にはそのどちらも居ない。今のところちゃんと付き合える時間も場所もないので残念だが,しかたがない。子どもが小さい時はそれで我慢していたが,大きくなってしまうと私の相手にはならない。つまらないので他所の家で飼われている犬や猫をちょっとかまわせてもらうとか,公園の野良猫と遊ぶなどして私の不遇をかこつ昨今なのである。
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