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はじめに
運動器疾患による関節や筋,神経等に生じる諸問題は運動や感覚機能障害をもたらし,随意運動を難しくすると同時にADLに支障をきたす.リハアプローチの目的は失われた運動・動作を再学習する,あるいは新たに学習することであり,それには中枢神経系の再組織化(reorganization)が深くかかわっている.したがって,運動学習にかかわる中枢神経機構について理解することは,効果的な運動機能回復を目指すうえで重要である.
運動学習は,運動適応学習,運動技能学習,運動連合学習の3種類に分けることができる(図)1).運動適応学習(adaptation learning)は習熟・熟練学習とも呼ばれ,すでに習得している運動技能をより効率よく行うことを指し,脳内では運動にかかわる方向や力の大きさ,タイミング等が調整されることが想定される.運動技能学習(acquisition learning)は,今まで経験していない未修得の新しい運動技能を獲得し,脳内で新たに運動プログラムが形成していく過程であり,一般的な「運動学習」はこのタイプを指すことが多い.最後に,運動連合学習(association learning)は,知覚されるものと実行すべき運動との間にある法則性を学習し,その結果として求められた運動課題を効率よくスムーズに遂行できるようにすることを指す.運動器あるいは中枢神経疾患によって生じる運動・感覚障害を回復させる過程は,運動適応学習であると同時に,障害によって未修得の「新しいパターン」を獲得する運動技能学習でもある.さらに,経験に照らし合わせて複数の運動技能や感覚刺激を巧みに組み合わせながら,新しい事態に対応した運動連合学習が進むことが想定される.
運動学習を通して新たな運動技能を習得するためには繰り返し練習することが必要であり,それに伴う中枢神経系の再組織化にかかわる神経基盤を理解することは,効果的な機能回復につながる.大脳皮質では,一次運動野,補足運動野,運動前野,前頭前野等といった運動関連領域や体性感覚野が運動に深くかかわっており,加えて錐体外路系である大脳基底核と小脳が,学習された運動パターンを調節し,随意運動を修飾する.
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