シリーズ ポストコロナ社会を考える—変わるもの,変わらないもの
コロナ禍以降における共話
ドミニク チェン
1
Chen Dominique
1
1早稲田大学文化構想学部
pp.50-51
発行日 2021年1月15日
Published Date 2021/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001202372
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わたしは,未来とは予測するものではなく,つくり出すものだと考えているので,何が変わり,何が変わらないかを考えるのはなかなか難しい.社会の見通しが悪い状態も続いているが,それでも時が経つにつれて,世界が以前のように元通りにならないのだろうなという思いだけは募っていく.
コロナ禍以降で,わたしの生活で起こった変化を即物的にいってみれば,スクリーンタイムが大幅に増加したことと,物理的な移動がとてつもなく減少したこと,この2点に要約される.生活圏が凝縮され,会って話す人数も激減したことで,作業に取り組んだり,本や論文を読んだり,家族と一緒に過ごしたりする時間が大幅に増えた.しかし,その分,家族や親しい人以外の他者と適切な距離をとれなくなっているように感じる.ビデオ会議で仕事をしていると,合理的な対話はできるが,親密な雑談はしづらいというのは多くの人が感じていることだと思うが,一番つらいのはオンラインで講演を行うことだ.物理的な会場の観客が目の前にいないことで,虚空に向かって話している感覚に包まれ,話し終わったあとには毎回,もう二度とやりたくないとさえ思う.以前,ヘルメット付きの宇宙飛行服を着て会話をするという体験をしたことがあるが,そのときに相手の存在がとてつもなく遠くに感じられ,孤独を味わったことと似ている.
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