連載 認知症と仏教・第8回
死を分かち合う
日髙 明
1,2
1NPO法人リライフむつみ庵
2相愛大学
pp.1030-1031
発行日 2020年8月15日
Published Date 2020/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001202230
- 有料閲覧
- 文献概要
シライさん
シライさんが亡くなった.むつみ庵に6年前に入所した男性で,若いころから修理工として働いてきた方だった.ずっと仕事一筋だったのだろう.自動車の話が出ると,キラッと目が光って饒舌になった.しかしそれ以外では,釣りもしないし,囲碁将棋もしない,これといった趣味はないということだった.もちろんカラオケもしない.レクリエーションで歌いたい曲を訊かれても,「これしか知りません」と言って,自分からリクエストするのは決まって「ハトポッポ」だった.
几帳面な性格で,居間に掛けてある日めくりカレンダーを毎朝めくることを日課としていた.寝る前には,まだ居間に人がいても,加湿器やホットカーペットのスイッチを片っ端から消して自室へと上がる.職人気質だが近寄りがたいわけではなく,男女の区別なく他の入居者と気さくに話し,スタッフの介助に対しては,「すんません,ありがとう」と,いつも笑顔で声をかけてくれる.そういう人だった.
Copyright © 2020, MIWA-SHOTEN Ltd., All rights reserved.