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Key Questions
Q1:脊髄損傷者に対する運転支援の実際は?
Q2:脊髄損傷者が希望する運転支援とは?
Q3:脊髄損傷者の障害に応じた運転リスクや支援とは?
はじめに
ニュースに自動運転の話題があたり前のように報じられる時代となった.つい10年ほど前であれば,まさしく夢のような話であったことが現実のものとなってきている.2020年の東京オリンピックでも自動運転のバスやタクシーを運行させる構想があるという.これら自動運転の話題は,高齢者および認知症者にまつわる交通事故の報道が増えている1,2)ことと無関係ではないだろう.
本邦でも高齢者の将来的な移動手段として自動運転を挙げる報告が散見される3)ようになり,実際に技術的な検討を行う報告4,5)もみられている.しかし自動運転にも「レベル」があり6),システムが基本的に運転を行うレベル4,5に至るのは2025年以降との見通しをしているメーカーが多く,まだまだ自動運転で運転に関する諸問題が解決するまでには時間がかかると思われる.高齢者や認知症者のドライバーに対しては,2009年(平成21年)の改正道路交通法で認知機能検査が義務づけられ,さらに2014年(平成26年)の改正道路交通法施行により高次脳機能障害者に対する対策の強化が図られたのは,運転支援にかかわる者には周知の流れである.
高齢者に限らず,障害と共に生きることとなった方々にとって,自動車を運転できることは,社会参加という観点からは大変意義深い.その一方で認知症ドライバーに象徴されるように,適切な評価の裏づけと支援がなければ,彼らを自動車社会に送り出すことへの世間の理解は到底得られるものではない.法改正を含む前述の流れは,そのことを明確に示しているものである.
筆者らは,主として高次脳機能障害者に対する自動車運転再開に向けた評価を,2007年(平成19年)ごろよりOTを中心として実施してきた.初期には神経心理学的検査を柱としていた評価も,ドライビングシミュレーターの導入や近隣の教習所と連携した実車評価の開始等,より実際的な内容を加えた流れへとかたちを変えてきている.その過程で,高次脳機能障害者だけでなく,脊髄損傷者や関節置換術後の股・膝関節変性疾患患者等,高次脳機能障害以外の方々にもドライビングシミュレーターを試行する機会を得た.その結果,脊髄損傷の完全麻痺者では,明らかな反応の遅さや,手動ブレーキ,アクセルの操作ミスを頻繁に目の当たりにすることに驚かされた.また不全損傷者においては,高次脳機能障害者と似た反応のムラや,複数対象への注意配分の困難さにしばしば遭遇することに気づかされた7〜9).
身体障害者,とりわけ脊髄損傷者に対する自動車運転支援は歴史が古く,運転席への移乗や車いすの積み込みの支援が主として行われてきている10,11).しかし運転そのものの質や内容についてはあまり検討されてこなかったように思われる.本稿では主に動作面からの支援が多かった脊髄損傷者について,いくつかの知見を提示したい.
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