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Key Questions
Q1:芸術を作業療法の中でどのようにとらえているか?
Q2:OTが芸術を取り入れる必要性とは何か?
Q3:芸術が作業療法の中でもたらす意味とは何か?
はじめに
私は身体障害者入所施設に併設されたクリニックで施設入居者を対象とするとともに,外来の方に作業療法を行っている.対象疾患は自閉スペクトラム症,脳性麻痺,脊髄損傷,脳血管疾患等で,年齢範囲は子どもから成人までと幅広い.
作業療法の中で芸術を意識するときは,対象者とのかかわりの中から自然と作業へ取り組むことになったときや,対象者からの希望で作業を取り入れたときである.前者は私が適した作業を選んで提供しているのに対して,後者は対象者の意志が明確に表現されているため,その方の意外な一面を感じることができる.それまで知らなかった面を目の当たりにして,さらに対象者に対して関心をもつようになる.
対象者が表現する能力は障害や年齢により異なるが,私はどのようにして対象者がその作業に興味をもつようになったのか,その経緯に対象者のこれまでの生活が反映されていると思う.そこでさらに私は,対象者がどのようにしてその作業に関心をもつようになったのかを理解しようとする.そのため,私にとって芸術は対象者を知る機会を与えてくれるものであり,作業療法で対象者とかかわるうえでの一つの手段である.また,それをそのまま受け止め,作業へ移すことで対象者自身が,あらためて現在の自己の能力に気づくきっかけとして芸術をとらえることができる.
さて,その芸術について,文化芸術基本法前文に,「文化芸術は,人々の創造性を育み,その表現力を高めるとともに,人々の心のつながりや相互に理解し尊重し合う土壌を提供する」1)とされている.また,内閣府の2017年度(平成29年度)国民生活世論調査2)によれば,これからは心の豊かさか,物の豊かさかを問うたところ,「『物質的にある程度豊かになったので,これからは心の豊かさやゆとりのある生活をすることに重きをおきたい』と答えた者の割合が62.6%.『まだまだ物質的な面で生活を豊かにすることに重きをおきたい』と答えた者の割合が29.2%」となっている.
芸術は自由に表現することができ,作業療法で芸術を取り入れた場合,対象者は,作品ができ上がる過程で気持ちを整理したり,現在置かれている状況を対象者自身が理解したりすることができる.表現することが困難であるにもかかわらず,それに取り組み,集中する時間を経験することで,心身に変化がみられ,その作業は対象者自身だけではなく,それにかかわる他者も対象者の気持ちに共感することができる.
以下に具体的な事例を提示し,芸術を作業療法に取り入れる意味を考えたい.
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