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はじめに:事例紹介
退院後の生活を見据えた機能訓練とADL・IADL練習,医療・介護連携によって,農作業という役割の再獲得につながった事例を紹介する.
50代,男性.右被殻出血の診断にて当院へ入院,左半身重度運動麻痺と感覚障害,左半側空間無視,注意障害,病識欠如を呈した.2病日に理学療法,作業療法,言語聴覚療法を開始,14病日に歩行練習開始,31病日に回復期リハ病棟へ転入した.既往歴は高血圧.意識清明で,全身状態は安定しており,麻痺側は廃用手レベルで,運動時と夜間に肩の痛みがあった.Barthel Index(BI)25点,食事とリハ以外は臥床し,ADLは食事・排尿・排便自制は自立,他ADLは全介助である.口数は少なく,詳細を聴取されると表情は険しくほぼ無言となり,希望は「とりあえず歩けるように」であった.具体的な生活行為目標は共有せず,機能回復を促し,ADL自立へ向けて介入した.リハには黙々と取り組み,順調に機能およびADLは向上した.OT等の助言に理解は示すが,生活動作は受け身的で,能力より介助量は多かった.
性格は真面目で穏やかである.生活歴として,病前のADL・IADLは自立し,屋内外の整備,敷地内の畑で農作物づくりや草むしりといった農作業が役割であり,それと晩酌,旅行も楽しみであった.仕事は高校卒業後,長年営業職を務めた後,事務部門へ異動し,車で通勤していた.日曜の休日には農作業や屋内外の整備,車で1人または妻と買い物へ行く等して過ごしていた.
家族構成は妻,母,長男,次男と五人暮らし.妻,息子2人は仕事で日中は不在である.母はうつ傾向があり,ベッド上生活である.妻は「(本人が)入院後は怒りっぽくなった」と言う.住宅は持ち家で生活空間は1階,玄関に20cmの段差と各部屋入口に数cmの敷居がある.屋外は,地面が土で一部が凸凹した庭があり,家屋の一角は道路に面している.経済状況は問題ない.
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