- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
人は一人では生きていけない.また,人は作業なしでは生きていけない.作業を行うことで,自分らしさを確認し,生きる糧を得,役割や価値,自己と他者等,社会人として個人としての存在を自覚できる.その中でOTの役割は,「作業」の保障に尽きる.「ひとは作業をすることで元気になれる」という作業療法の理念は普遍的であり,OTは,それを具現化できる人材であり続けなければならない.
さて,現状の作業療法に対して反省を促す調査結果が多く出されている.2012年度(平成24年度)の介護報酬改定の際の通所および訪問リハの実態調査(図11)),医療が必要な要介護高齢者のための長期療養施設の在り方に関する調査研究事業(図22)),「作業療法白書」による身体障害領域での実践調査等である.現状の作業療法は,OTの本務である,「応用動作能力および社会的適応能力の改善」,「作業を用いる」といった法のもとの作業療法への回帰が望まれている.
生活行為向上マネジメント(以下,MTDLP)は,「作業療法の30cmのものさし」を示すために開発された.「30cmの作業療法」は,「活動」と「参加」に資する最低限の作業療法を言い表している.新人であってもベテランであっても,OTであれば誰もが行う作業療法.その最低限という意味合いを「30cmの作業療法」と表現したのである.当然,MTDLPだけでは不十分であり,その他種々の検査や評価が必要である.つまり,MTDLPは,作業療法の最低限を示したに過ぎず,今後実践を通して発展させていかなければならない.
MTDLPは「OTの思考過程」に沿って作成されたツールである.老人保健健康増進等事業で行われた関係で,主に高齢者に焦点を当てているが,基本的な構造はすべての作業療法の対象者に活用できるものと考えている3〜8).MTDLPという名称にしたのは戦略的な判断があったが,結果として「活動」,「参加」が注目されることとなり,間接的に作業療法の認識は高まった.
MTDLPというツールによって作業療法が「心身機能」,「活動」,「参加」にバランスのとれた内容へと変容しつつある現状は,6年間に及ぶ調査研究事業に携わった者として望外の喜びであり,今後の作業療法のあり方に一石を投じたものと自負している.本編ではMTDLPと作業療法との関連性について述べるが,その背景は筆者個人の40年間の作業療法実践に基づくものであり,学問的な知見からの記述でないことをあらかじめご了承いただきたい.
Copyright © 2016, MIWA-SHOTEN Ltd., All rights reserved.