- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
認知症は,脳の病的変化(器質的障害)によって,いったん発達した知的機能(認知機能)が,日常生活や社会生活に支障を来たす程度にまで,持続的に障害された状態,と定義されている.つまり,何らかの脳の病気によって認知機能が障害され,これによって生活が障害された状態が認知症である.このような「脳の器質的障害-認知機能障害-生活障害」の三者の連結が認知症概念の中核を構成している.
しかし,認知症の臨床像の全体はこれだけでは説明しきれない.認知症では,「脳の器質的障害-認知機能障害-生活障害」を中心にして,さまざまな「身体合併症」や,さまざまな「行動・心理症状」が現れる.これらの個々の障害や症状は相互に影響を及ぼし合いながら,認知症の臨床像を複雑なものにしていく.特に,身体合併症と行動・心理症状は相互に密接な関連をもち,行動・心理症状が悪化すれば身体合併症が悪化し,身体合併症が悪化すれば行動・心理症状が悪化するというような悪循環を形成する.
このような臨床像の「複雑性」は経過とともに進展していく.それが認知症の特徴といっても過言ではない.そして,まさにこの「複雑性」のために,認知症をもつ人はさまざまな「社会的困難」に直面し,生活の質(quality of life:QOL)を低下させていく.たとえば,一人暮らしの認知症の人は,認知機能障害や生活障害のために,社会参加が阻まれ,社会活動が減少し,人とのコミュニケーションが少なくなって,社会の中で孤立しやすくなる.また,計画的な行動が困難になり,家の中はゴミだらけになり,生活は困窮し,経済被害も受けやすくなる.そのような状況の中で,しばしば不安,抑うつ,被害妄想,攻撃性等の行動・心理症状が現れ,近隣とトラブルが生じ,地域社会から排除されたりする.また,家族がいる場合には,家族の介護負担が高まり,家族に健康問題が生じたり,虐待の問題が生じたり,時には介護心中といった危機的事態に陥ることもある(図1).
このような「複雑性」のプロセスは,認知症の初期段階において,すでにその萌芽が認められている(図2).したがって,複雑性のプロセスが進展する前に,臨床像の全体を総合的にアセスメントし,多職種間で情報を共有し,これに基づいて必要な保健・予防,医療・看護,介護・リハ,生活支援,家族介護者の支援,住まい,権利擁護等のサービスを統合的に提供し,認知症の人と家族のQOLを保持することが,認知症支援の基本になる.
Copyright © 2015, MIWA-SHOTEN Ltd., All rights reserved.